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姿勢の解剖学とデスクワーカーにすすめるセルフケア(上肢編)
2018.09.21

文・写真:医道の日本社編集部 
監修:早稲田大学スポーツ科学学術院准教授 中村千秋

(月刊「医道の日本」2017年2月号より転載)

ここではデスクワークによって起こりやすい姿勢の例を取り上げて、その姿勢を続けることでどのような影響が身体にあるのかを、筋に注目して考察する。また、その姿勢を改善するために治療院でも患者に指導できるセルフケアを紹介する。


頚や肩への影響

デスクワーカーにしばしば見受けられるのが、頭部を前方に突き出し、背中が丸まった姿勢ではないだろうか(写真)。

 

頭部前方位、胸椎後弯が増加したこの姿勢は上部交差症候群(図1)と呼ばれている。

図1 上部交差症候群 硬く短い筋と弱く長い筋が上部で交差する

 

頭部が前方にあると、それを支えるために後頚部にある僧帽筋上部や肩甲挙筋、胸鎖乳突筋の緊張が起こる。頭部の重さは人により異なるが4.5kg の重さがあるとすると、1インチ(約2.54cm)頭部が前方に位置するごとに、それを支える組織に4.5kg ずつ負担が増加する。また、胸椎後弯が増加している場合は、大胸筋、小胸筋、広背筋は短縮(硬く短くなる)し、僧帽筋中部・下部、前鋸筋、菱形筋は伸長(弱く長くなる)していずれも機能の低下が生じると考えられる。
このような姿勢が長時間続けば、頚や肩の慢性的な痛みや機能低下を招く可能性がある。

 

上部交差症候群の特徴

姿勢所見

硬く短くなっている
可能性がある筋

弱く長くなっている
可能性がある筋

頭部前方位
胸椎後弯

胸鎖乳突筋、後頭下筋群、
僧帽筋上部、肩甲挙筋、
大胸筋、小胸筋、広背筋
深部頚椎屈筋群、
僧帽筋中部・下部、
前鋸筋、菱形筋

 

呼吸への影響

上部交差症候群は、頚や肩だけではなく、呼吸運動にも影響を及ぼす。
丸まった背中によって、物理的に横隔膜が圧迫されて、大きくリズミカルな呼吸をすることが難しくなる(図2)。そのために頚部と胸部を使った短くて浅い呼吸をするようになる。

図2 正常な横隔膜(左)と圧迫された横隔膜(右)

また、呼吸運動には横隔膜や肋間筋のほかに多くの筋が補助的な働きをしている。胸鎖乳
突筋は胸骨と鎖骨の挙上、大胸筋と小胸筋は肋骨の挙上や胸郭の拡大、僧帽筋と肩甲挙筋は
上肢帯の引き上げなどの働きがある。したがって、これらの筋が短縮や伸長している場合は、
少なからず呼吸にも影響を及ぼすと考えられるだろう。

 

セルフケア

デスクワークによって短くなったり長くなったりして機能が低下した筋の柔軟性や収縮性を高めて、機能を活性化させるためのエクササイズの一例を紹介する。

①後頭下筋群のストレッチ

両肩甲骨を寄せて、胸を少し張るようにする。
顎を軽く引き、後頭部と両肩甲で壁を軽く押す。

 

②胸鎖乳突筋のストレッチ

頚椎を伸展することで両側が軽く伸びる。
右側を伸ばすには、左へ側屈したまま、右に回旋して伸展する。

 

③胸椎の柔軟性を促すストレッチ

胸椎・腰椎を後弯させて背中を丸める。
次に、胸椎・腰椎を前弯させる。この運動を数回繰り返す。

 

④胸椎伸展を促すエクササイズ

肩甲骨の下にフォームローラーを置き、胸椎の伸展を促す。
腕を後方に伸ばすことで、胸筋や広背筋がさらにストレッチされる。

次回は「姿勢の解剖学とデスクワーカーにすすめるセルフケア(下肢編)」をお届けする。

参考文献
1)Thompson,Floyd.中村千秋,竹内真希訳.身体運動の機能解剖.医道の日本社,1997.
2)J.J.シプリアーノ. 斉藤明義監訳.整形外科テスト法増補改訂新版. 医道の日本社,2004.
3)新関真人. 図解 姿勢検査法. 医道の日本社,2003.
4)中村千秋編集.渡部賢一,鈴木岳, 北川雄一著. ファンクショナルトレーニング.文光堂,2010.
5) Kelly Starrett, Juliet Starrett, Glen Cordoza. Deskbound Standing Up to a Sitting
World.VICTORY BELT PUBLISHING,2016.(2019年医道の日本社より刊行予定)