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スポーツカイロプラクター“Dr.S”が解説する 機能解剖から考える疾患別治療ノート【第6回】腸脛靱帯症候群(Iliotibial band syndrome)
2018.07.26

【第6回】腸脛靱帯症候群(Iliotibial band syndrome)

by榊原直樹(DC, DACBSP, PhD)


腸脛靱帯症候群は1975年にRennelによって初めて定義されました(Renne JW., 1975, http://bit.ly/2vhMxwo)。反復傷害であり、膝の痛みとして最も多い原因と言われています。特に、サッカーやバスケットボールの選手、ランナーなどに好発します。

腸脛靱帯は腸骨稜を起始に持ち、大腿筋膜張筋と大殿筋に癒合しています(大殿筋との癒合の方が強力です)。停止はGerdy結節(脛骨の前外側)、腓骨頭、外側広筋、大腿骨外側上顆、外側膝蓋支帯、膝蓋骨、膝蓋靱帯にあります。

 

腸脛靱帯の停止

1.Gerdy結節
2.大腿骨外側上顆
3.腓骨頭
4.膝蓋骨
5.外側広筋
6.外側膝蓋支帯
7.膝蓋靱帯

 

症状

主症状は膝関節外側の痛みです。初期段階では痛みの領域は不明瞭ですが、症状の進行に伴い、鋭い局所痛へと変化していきます。

下り坂での歩行やランニングで膝外側の鋭い痛みを訴えるケースが非常に多いです。また長時間の座位から立ち上がる瞬間に痛みが現れることもあります。膝外側の痛みの鑑別診断は表1を参照ください。

1 膝外側痛の鑑別診断

腸脛靱帯症候群
大腿二頭筋腱炎
外側側副靱帯損傷
外側半月板損傷
膝窩筋腱炎
膝蓋大腿関節痛
腓骨頭のサブラクセーション

原因

膝関節が30°屈曲位の時、腸脛靱帯と大腿骨外側上顆は重なります。したがって、膝関節が30°屈曲位を通過するたびに腸脛靱帯と大腿骨外側上顆の間で摩擦が生じます。摩擦頻度が過剰になったり(マラソンや登山など)、摩擦負荷が増大した場合に腸脛靱帯症候群の発症リスクが高くなります。

これまでは摩擦により腸脛靱帯に炎症が生じることで膝外側の痛みになると考えられていましたが、最近は腸脛靱帯の直下にある脂肪体の炎症が痛みの原因と考えられています(図1)。この脂肪体にはパチーニ小体が密に存在しています。

図1 右膝前面図

 

 

【股関節外転筋の機能低下】

股関節外転筋の機能低下により、股関節は内転位に保持されるようになります。それに伴い腸脛靱帯が伸張され直下にある脂肪体への圧迫が増加します。この傾向は荷重位(スタンスフェーズ)においてより顕著になります。

【腸脛靱帯の過緊張】

腸脛靱帯の過緊張も、脂肪体への圧迫が増加します(腸脛靱帯の硬さの検査にOber’sテストがあります。検査の項参照)。長時間の同じ姿勢(座位や立位)、同じ動作の反復(ランニングなど)により腸脛靱帯は拘縮します。また、疲労の蓄積も同様です。

【踵骨の外反変位】

踵骨の外反に伴い脛骨と大腿骨は内旋します(膝関節のQアングルは増加)。大腿骨の内旋には内転が伴うため、腸脛靱帯は伸長されます。

 

検査

腸脛靱帯症候群の代表的な整形外科的テストには、Noble圧迫テストとOber’sテストがあります(表2)。Noble圧迫テストにおいて膝関節を30°屈曲位にするのは、この角度で腸脛靱帯と大腿骨外側上顆が重なるからです。またOber’sテストが陽性の場合は「腸脛靱帯の硬さ」のみを示唆しており、必ずしも腸脛靱帯症候群というわけではありません。

表2 腸脛靱帯症候群の整形外科的テスト

検査名

方法

陽性反応

Noble圧迫テスト

1.仰臥位において膝関節を30°屈曲位にする
2.大腿骨外側上顆を圧迫

大腿骨外側上顆の鋭い圧痛

Ober’sテスト

1.側臥位(検査側を上)において上側下肢を保持し、股関節をやや伸展位にする
2.もう一方の手で骨盤を固定し、下肢をテーブルに向かって下ろす

足がテーブルまで下りなかった場合

触診では大腿骨外側上顆周辺だけではなく、腸脛靱帯の停止まで診るようにします。Gerdy結節周辺の圧痛もしばしば触診されます。

【Noble圧迫テスト】

 【Ober’sテスト】

治療

腸脛靱帯の筋膜リリースは治療法の一つです。また腸脛靱帯は近位部において大殿筋、大腿筋膜張筋と癒合しているので、これらの筋肉周辺の筋膜リリースも有効です。

また股関節外転筋(特に中殿筋)の機能低下が腸脛靱帯症候群の原因の一つとも言われています。よって、中殿筋の機能改善も有効な方法の一つです。Fredericsonsは股関節外転の筋力強化により、腸脛靱帯症候群の症状が劇的に改善したと報告しています(Fredericson M, 2000, http://bit.ly/2Kpv74C)。

中殿筋の機能改善エクササイズ

1. 側臥位になり下側下肢は体幹と揃えて真っすぐにする
2. 上側下肢の膝を屈曲させ足を反対側下肢の膝窩に置く
3. 上側下肢の膝を自動的に挙上する
 

ホームエクササイズとして、腰方形筋、大腿筋膜張筋、中殿筋、腸脛靱帯のストレッチが推奨されます。これらの筋群のストレッチ法は、以下の通りです(以下は右側のストレッチ法)。

1. 立位で右手を壁に置く
2. 左下肢が前側になるように両下肢を交差
3. 右側に重心を移動させ体幹部で屈曲させる
4. 上記の状態で30秒から1分程度保持する

 

プロフィール

榊原直樹

ドクターオブカイロプラクティック、スポーツカイロプラクティックフィジシャン、医学博士(スポーツ医学)

1992年 東北大学卒業(動物遺伝育種学)
1997年 クリーブランドカイロプラクティックカレッジ卒業
2006年 冬季オリンピック帯同ドクター(イタリア、トリノ)
2009年 ワールドゲームズ帯同ドクター(台湾、高雄)
2011年、12年 世界パワーリフティング選手権大会日本代表チームドクター(チェコ、プエルトリコ)
2015年 岐阜大学大学院医学系研究科非常勤講師
2009年より名古屋にて『スポーツ医学&カイロプラクティック研究所』所長(http://sportsdoc.jp/)。また2017年よりスポーツ徒手医学協会会長(http://jamsm.org/)も務める。