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【第12回(最終回)】あはき住職が語る 禅的体操のエッセンス ゴムを使った大腰筋トレーニング
2017.11.14


京都・嵐山薬師禅寺住職で鍼灸マッサージ師でもある樺島勝徳氏の考案した、簡素で静かな動きの体操を紹介する本連載。最終回の今回は、坐禅に必須の仙骨を立てた腰構えを可能にする、極めてシンプルだが奥深い鍛錬法を紹介する。


 

私の体操教室の基本は、「陽より陰、陰より禅、禅よりはらわた」である。この基本を実現する最も有力な筋肉が、大腰筋などの深部腹筋である。ご存じのように、立位で大腿を水平以上に挙げるとき、この大腰筋が主導権を握る。また、座位で後傾した仙骨を立てるときには、腸骨筋とともにこの大腰筋が働く。大腸筋と腰骨筋をセットにして腸腰筋と呼ぶ。

ところがこれらの筋肉は、仙腸関節や仙骨の関節が固まっている人ではうまく働かない。坐禅の様式で脚を組み、後傾した仙骨を立ててみるとそれが分かる。できる人はできるし、できない人にはできない。禅の専門道場では、新入りの雲水*1の仙骨が立つようになるまで、数カ月をかけて鍛える。幼少期に「立腰教育」を受けた人にとっては、極めて自然なことだけれども、できない人にはできないのである。

できない人にどうやらせるか。少しテクニックがいる。禅の専門道場では、修行と称して根性で無理強いするが、病弱者を対象とする体操教室では、そんなことはできない。そこで写真1のような運動を考えた。ストレッチチューブの両端を縛り、大きな輪ゴムを作る。それを写真1のようにセットして、膝の力でこの輪ゴムを引っ張る。注意点としては、膝をなるべく胸に近い位置で引っ張ること。そして、呼気とともに引っ張ること。初心者はゆっくりした呼吸で10回から20回。慣れてきたら持続的に引っ張って、1分から2分。

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この運動を始めてから、次髎や下髎あたりの仙骨部に痛みが起こるようになった。これまでに経験したことのない部位の痛みである。この痛みは半年ほど続いて消えていったが、その頃から、真に仙骨を立てて坐ることができるようになった。この半年にわたる仙骨部の痛みは、仙骨部と仙腸関節の柔軟性を獲得するプロセスだったのだろう。私がこれを経験したのは65歳の頃だから、若い人ならば半年もかからず、もっと早く柔軟性が確立すると思われる。それ以前に私の坐禅の姿は一応完成していると思っていたのだが、まだまだダメだったようだ。

スクワットでよく言われる「膝をつま先から前に出さない」という注意点も、この輪ゴムのトレーニングで、勝手に改善してゆく。最もしゃがんだ姿勢から立ち上がる動き(フルスクワット)では、仙骨部の柔軟性が豊かになると、写真2のように、上体が腰の下のほうから立ち上がる。仙骨部が固まっている人は、写真3のように、老人が椅子から立ち上がるような動きをする。踵と頭の位置関係に注目していただきたい。写真からは伝わらないが、写真2の状態から、重心が踵から前に来ないように立ち上がるのは、足腰に極めて大きな負荷がかかる。仙骨部が柔軟に動いてくれないとできない動きである。今回のゴムトレーニングで、それが格段と容易になった。

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当然のことだが、仙骨部が柔軟になると下腹部の動きが豊かになる。呼吸運動の可動範囲が、下腹部から胸郭までと、大きく増える。腹部臓器もゆるやかに安住し、心肺機能も上がる。坐禅の上級者では、通常の下腹部の動きにとどまらず、さらに恥骨を押し下げるような動きで呼吸をするくらいだ。「気海・丹田・腰・脚・足心*2に気をこめよ」と指導する。これも仙骨部が「立腰」し、繊細に動く柔軟性がないと不可能なことである。その意味では幼少のころから「立腰教育」を行って、子供が健康にたくましく育つように用心し、入念に躾をしてあげなければならない。ちなみに、「立腰教育」の効果には、次のようなものが挙げられている。

・やる気が起こる

・集中力がつく

・持続力がつく

・行動が俊敏になる

・内臓の働きがよくなり、健康的になる

・精神や身体のバランス感覚が鋭くなる

・身のこなしや振る舞いが美しくなる

ご存じのように、仙骨部には上髎・中髎・膀胱兪など多くのツボがある。ツボの名前が記載されているのだから、古人にはそのツボ特有の意味が見えていたのだろう。これらのツボは仙腸関節や股関節の繊細な動きを担保する部位であり、同時にバランス機能や排泄、生殖器の機能を左右するツボでもある。解剖学では不動とされる部位でも、私たち鍼灸・指圧師は目に見えないこの部位の確かな働きを発見し、その重要な役割を自覚すべきだろう。現代の都市生活では、仙骨や股関節を繊細にそして力強く使う機会もあまりない。あまりないから発達しない。筋肉の動きは雑になってバランス機能が落ちる。もしかしたら、最近の不妊症の増加も、これらの未発達が原因なのではないか? 脊柱の土台となる仙骨の各関節は、生きて働けるように整備しておくべきである。

*1 雲水(うんすい):もとは遍歴修行する禅僧の意だが、ここでは禅寺の修行僧を指す。
*2 足心(そくしん):経外奇穴。足底の土踏まずのほぼ中央。

プロフィール

1949年、福岡市生まれ。1974年、花園大学仏教学科を卒業。1982年、佛眼厚生学校(現・京都仏眼鍼灸理療専門学校)を卒業、はり師・きゅう師・あん摩マッサージ指圧師の資格を取得。京都・嵐山薬師禅寺住職。元・花園大学非常勤講師(東洋医学)。著書に『プチうつ 禅セラピー』(禅文化研究所)、『絵を見てできる禅的体操』(法研)など。