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【第10回】あはき住職が語る 禅的体操のエッセンス 腰部脊柱管狭窄症と診断された下肢痛の原因は?
2017.09.19


京都・嵐山薬師禅寺住職で鍼灸マッサージ師でもある樺島勝徳氏の考案した、簡素で静かな動きの体操を紹介する本連載。今回も、これまでに解説した身体理論を治療に応用した事例を紹介する。


  患者は60歳前の男性。小学校の校長先生で、私の本の読者である。兵庫県から治療に来られた。整形外科で腰部脊柱管狭窄症と診断され、手術を勧められている。ところが、行きつけの整骨院で「手術は避けるべきだ」と言われて、迷っている、とのこと。 立位になると、すぐに右下肢の外側から後側がだるく痛み始める。ステージに立って卒業式の証書を渡すわずか数十分間が、つらくてたまらなかったという。歩行は50mもいかないうちに痛み始め、座ると痛みは消える。腰痛はない。 患者を椅子に座らせ、大腰筋の筋力を調べる。大腿を高く上げてもらうと、左右ともに十分な筋力があることが分かった。バドミントンの選手だったらしいから、鍛え上げているのだろう。数年前には社会人の大会に出場したという。 次に、椅子に坐った状態のまま、頭上に2kgほどの重しを置いてみる。第9回の事例と同様、頭上の荷重が増えると症状が再現されるのではないかと予想したのだが、それに反してしびれも痛みも出ない。そこで、「腰部脊柱管狭窄症は誤診ではないか?」という疑問が芽生えた。 さらに背臥位で、殿部を浮かす動きを試す。これも痛みは出ない。下肢を浮かしてみても問題ない。つまり、背筋も腹筋も十分に筋力がある。 そこで今度は、床に座って両下肢を投げ出してもらい、股関節内側の筋力を調べる。下図の右脚のように片脚を浮かせて、足先を外に寝かせる。こうすると下肢の重さは、すべて股関節の内側にかかる。 zen10-1 これを左右調べると、右股関節の前側は十分な筋力があるのに比べて、内側は明らかに弱い。胃経は実、脾経は虚と理解してもよい。さらに、本シリーズ第2回「身体の陰側を育て鍛える股関節運動」で紹介した動きを試してみると、これも右が極めて弱い。 これでほぼ理解できた。右股関節の大腿骨骨頭が外にずれたのが原因と推測する。ずれた結果、内側の筋力が低下し、さらにずれを増加させるという悪循環に陥っている。まずバイブレーターを使って、このずれを矯正する。 下図のように、患者を右を上にした側臥位にする。両下肢は伸ばしたまま重ね、全身の力を抜いて、クターッと重力に任せる。術者は自分の左大腿外側を患者の膝あたりに当て、患者の足腰を安定させる。そして大転子にバイブレーターを押し当てる。 zen10-2 押し当てる角度はちょっと難しい。骨頭は体重によって上と後ろにずれながら変形が進むから、大転子に押し当てる角度はその逆。上から足先に向かうベクトルと、後ろから前に向かうベクトルの合わさった方向にするのが原則である。微細な角度や位置、押し当てる力加減は、少し経験が必要だが、とりあえず本人に細かく聞くといい。バイブレーターが振動しているので、術者には患者の反応が伝わってこない。だから最初のうちは聞いてみないと分からない。患者がツボにはまった心地よさを感じていればOK。そのまま1~2分押し当てて、心地よさが薄れてきたら終了。 施術後、先ほどのテストで股関節内側の筋力を調べてみると、変化が出ている。立ってみると、痛くない。歩行も問題ない。骨頭が生理的な位置に戻ったから、筋力も出たのだろう。本人もびっくりして喜んでいる。 この患者の場合、全身の筋力が十分にあるところから、老化による変形が主たる原因ではないと考えた。おそらくはバドミントンの試合中、右に踏み込む急激な動作によって股関節に衝撃圧が加わり、骨頭の位置にずれを生じたのだろう。 バイブレーターによる矯正だけでは効果が持続せず、数時間から数日後には必ず、体重によって治療前の状態に戻る。だから股関節内側の筋力トレーニングは必須である。このことを話し、いっしょに来ていた奥さんにバイブレーターを当てる角度と力加減を教え、本人には股関節内側の筋力トレーニング法を教えて、治療を終えた。 施術者への注意がある。バイブレーターを振動させながら大転子に圧を加えるこの療法は、反作用として施術者の肩関節にも振動と圧が加わる。これで上腕骨の位置関係にずれが生じる。だから指圧のように、体幹を用いて体重によって圧をかけてはいけない。もっと素人っぽく、腕の筋力で圧をかけるように用心し、肩関節への圧と振動を避けたほうがよい。

プロフィール

1949年、福岡市生まれ。1974年、花園大学仏教学科を卒業。1982年、佛眼厚生学校(現・京都仏眼鍼灸理療専門学校)を卒業、はり師・きゅう師・あん摩マッサージ指圧師の資格を取得。京都・嵐山薬師禅寺住職。元・花園大学非常勤講師(東洋医学)。著書に『プチうつ 禅セラピー』(禅文化研究所)、『絵を見てできる禅的体操』(法研)など。