CIANA

マッサージ情報関連サイト「シアナ」

MAIL MAGAZINE

記事&ニュース

【第9回】あはき住職が語る 禅的体操のエッセンス  頚腕症候群への禅的アプローチ
2017.08.04


京都・嵐山薬師禅寺住職で鍼灸マッサージ師でもある樺島勝徳氏の考案した、簡素で静かな動きの体操を紹介する本連載。今回は少し趣向を変え、身体症状の改善に禅的体操を応用した事例の報告となっている。本連載第3回「中心軸を鍛えて集中力を高める」とあわせて読むと理解が深まるだろう。



患者さんは60歳前の男性。左肩の冷えと左橈骨神経支配領域の日常的な不快感、軽いしびれと冷えを訴える。数十年前からの症状だという。症状がひどいときは、この領域に神経痛が起こる。MRIによる椎間板の検査では、ヘルニアは特にないが、退行変性によって左側が薄くなり、椎間孔の隙間が減少している、ということらしい。頚腕症候群である。首の牽引やホットパックをしているが、いっこうに治らない。外観からは、頚部が左に傾き、左肩がかすかに落ちている。

この患者さんは私の本の読者なので、ある程度の予備知識はある。そこで、椅子に座らせて頭上に2kgの砂袋を置いてみた。すると、日頃の軽いしびれや冷えが明瞭な神経痛に変わった。やはり、橈骨神経が椎間孔から出るあたりで圧迫を受けているのだろう。頭上の荷重が増えると圧迫が増加して、神経痛が明瞭になる。しかし、この神経痛も、砂袋を取り去り、負荷をなくすと消える。人為的に神経痛を出したり引っ込めたりできるのである。

痛みを出したり引っ込めたりできるのだから、治療法を開発するのに都合がいい。砂袋で負荷をかけて神経痛を出しながら、頭の角度を微妙に変化させて痛みの程度を診る。すると、負荷をなくしているわけでもないのに、痛みの消える角度があることが分かった。この患者さんの場合、体幹と頭を少し右に傾けてやや左に回転させると痛みが消える(下図)。実際に傾ける程度は微妙すぎて分かりづらいので、この写真では、少し過度に傾けている。

zen9-1

頭を少し右に傾けているときは、頚椎の左側の筋肉が働いているはずである。頭頂に負荷がかけられているので、より頚椎に近接した棘間筋や椎前筋などの深層筋が働くだろう。筋肉が働けば血行がよくなる。靭帯やその他の軟部組織にも血液が行きわたるだろう。東洋医学では、血行がよくなれば、万病が治ることになっている。頚腕症候群も治るはずである。20分くらいこの姿勢を続けてみた。公的医療では患部を保護するために牽引療法で引っ張るが、私は逆に、さらに圧迫を加えて生命力の反発を信じてみたわけだ。

その結果、痛みは2割くらい減少した。患者さんはもちろん私も喜んで、さらに20分間、頭上に砂袋を載せてみた。しかしその日は、もうそれ以上は改善しなかった。こうして20分を1日2回、1週間続けてみた。次の週に来られたときは、左肩と腕の重苦しさは、8割がた消えていた。左肩と腕の重苦しさは、もう治らないものと諦めていただけに、この結果は驚きである。

しかし、還暦近くになっての、骨格を変革する作業である。むろん、心地よいことばかりは起こらない。肩甲骨の間がどうしようもなくこり、痛む。寝返りが打てない。胸が開き、ことさらに顎を引いた姿勢となって、首の付け根あたりに違和感が固まっている、という。頚肩部の血流が増加しているらしく、なんだか心臓が戸惑っているような動悸を打つ。数十年来の身についた体癖の大変革である。こういう違和感はつきものなのだろう。それは成長痛として肯定し、歓迎するしかない。

この患者さんは、そこをよく理解し、私を信用してくれた。外から見れば若々しい姿勢への変革だから、それも嬉しい。数週間根気よく実行しているうちに、それらの違和感は徐々に薄れ、1カ月後にはほとんど消失した。顔の皮膚にも張りが出てむくみが消え、左こめかみにあった年寄りイボも小さくなったような気がする。むろん、左頚腕症候群は完治した。

ちょうどよい砂袋の重さは、女性500gから男性3kgと、個人差が大きい。身体が反応して背筋・首筋を伸ばそうとし始める最低の重さから始めるとよい。重すぎると成長痛がきつすぎる。また、猫背のあまりにひどい人や痛みのひどい人は、無理しないほうがいい。頚椎だけでなく、骨盤や腰もへたっているので、このシリーズ第3回の中心軸を育てる動きからスタートするほうが本筋である。

この方法はことさらに痛みを強く出して治療法を探すので、この意味を理解できない患者さんには、お勧めできない。患者さんと治療者との信頼関係が確立している場合にのみ実行できる療法である。

プロフィール

1949年、福岡市生まれ。1974年、花園大学仏教学科を卒業。1982年、佛眼厚生学校(現・京都仏眼鍼灸理療専門学校)を卒業、はり師・きゅう師・あん摩マッサージ指圧師の資格を取得。京都・嵐山薬師禅寺住職。元・花園大学非常勤講師(東洋医学)。著書に『プチうつ 禅セラピー』(禅文化研究所)、『絵を見てできる禅的体操』(法研)など。