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【第8回】あはき住職が語る 禅的体操のエッセンス 放下運動
2017.07.07


京都・嵐山薬師禅寺住職で鍼灸マッサージ師でもある樺島勝徳氏の考案した、簡素で静かな動きの体操を紹介する本連載。今回は操体法の応用で心中にたまったストレスを発散し、禅的身体感覚を呼び覚ます。


 

禅寺に行くと「放下著(ほうげじゃく)」という額が掲げてあるのを見る。「放下」とは放り出すこと。「著」は中国唐代の俗語で強調、命令の意を表す。煩悩や妄想、自身を束縛している根強い考え方などを捨て去り、心の底から自由になることをいう。現実の日常生活では、身体にたまったストレスを根っこから解消すること、と理解してもよい。

心のイライラ、疲れ、ストレスの奥には、必ず運動系のゆがみや内臓の疲れが潜んでいる。例えば、斜め前にイヤな上司の席があると、身体の無意識はおのずと反対側にねじれ、上司を避ける。身体の内部がくつろがない。筋肉・骨格系がアンバランスになる。これが8時間続く。骨格もゆがむ。さらに残業分の4時間が加わると、目覚めている一日の大半である。身体によいわけがない。

あるいは台所の立ち仕事でも、軸足の左右は個々人によってほぼ固定しているから、ここでも筋肉・骨格系がアンバランスになる。軸足の後側の膀胱経には実痛が起こり、腰椎と胸椎に回転のゆがみが起こる。このゆがみから肩こり・腰痛が起こる。鍼灸や整体、カイロプラクティックでこれを解消するのだが、私の道場では、操体法の原理であるバック運動瞬間脱力法で解消している。

まず、畳の上に背臥位で寝る。脇は90度に開き、肘を伸ばし、掌を天井に向ける。上半身はそのままで両膝を立ててゆっくり左右に倒し、腰・背・肩・首・顔のつっぱり具合と左右差を確認する(写真1)。次に、膝を伸ばし両足をそろえ、体幹をねじって両足を左右に投げ捨てる(写真2)。このとき、かかとは床すれすれの空中を移動し(バック運動)、息を呼きながらポイッと投げ捨てる(瞬間脱力)。投げ捨てる角度は、左右30度くらい。両肩はなるべく床に着けたままである。これを10回程度繰り返す。不思議なことに、なんとなく気持ちが丸くなってイライラが薄くなる。

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そして最後の締めくくりである。放り投げにくい窮屈な形に体幹をねじり、両下肢をそろえて床から10cm程度浮かし、呼気とともにバサッと落として脱力する(写真3)。これを数回繰り返す。このバック運動瞬間脱力法で、固まった筋肉・骨格系のゆがみが解消する。最初のテストをしてみると、両膝が左右にヘニャっと倒れるようになっているはずである。自然体に戻った身体は、まろやかな疲れを感じることとなる。

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ただし、不用意に両足を浮かすと椎間板ヘルニアの危険がある。ヘルニアを避けるには、臍を閉じて動く。これが難しい。腰痛の患者さんには、不用意に指導しないほうが無難である。指導するなら、腰痛がほぼ治ったあとがよい。腹筋をしっかり働かせて臍を閉じ、腰を後ろに凸にしながら両足を投げ捨てる。臍を閉じて両足を浮かすと、手足の動きが体幹の動きに変わる。四肢の動きだけでは、筋肉・骨格にまで染み込んだストレスには届かない。必ず体幹を動かす。体幹を自動運動し、そして瞬間脱力する。

床が硬いと、身体の無意識は脱力を警戒する。放下が半端に終わるから、床は少し柔らかいほうがよい。私の道場は床の全面にクッション材を敷き詰めているので、躊躇なく瞬間脱力できる。その結果、放下の身体感覚が色濃く分かる。あとはこの身体感覚で生きればいい。これを「放下運動」と名付けた。実質は「一人操体法」である。私の道場では数種類の「放下運動」を組み合わせて効果を高めている。放下感覚の記憶を呼び覚まし、身心を直に活かすのである。

禅寺に掲げてある「放下著」という言葉は、世間人の放下感覚を呼び覚ます使命を担う。しかし現在、世間人の身中を探してみても、この言葉に感応する放下の身体感覚は、あまりに希薄である。心の世界は高尚で身体の世界は低い、と見る知性優位の考え方が根強いからだろう。身体ぐるみで脱力していないと、ほんとうに安らかな心など現れてこないのに、残念なことである。

プロフィール

1949年、福岡市生まれ。1974年、花園大学仏教学科を卒業。1982年、佛眼厚生学校(現・京都仏眼鍼灸理療専門学校)を卒業、はり師・きゅう師・あん摩マッサージ指圧師の資格を取得。京都・嵐山薬師禅寺住職。元・花園大学非常勤講師(東洋医学)。著書に『プチうつ 禅セラピー』(禅文化研究所)、『絵を見てできる禅的体操』(法研)など。