CIANA

マッサージ情報関連サイト「シアナ」

MAIL MAGAZINE

記事&ニュース

私たちの生活は股関節屈曲であふれている
2017.06.30


デスクワークや車の運転、ソファでくつろぐなど、私たちの生活の中で座ることに費やされる時間は少なくない。長時間にわたる座位が、さまざまな疾患の要因となり、脳や心臓のリスクファクターにもなり得ることは「医道の日本」2017年2月号でも紹介している。ここでは、長時間の座位が運動器、特に股関節の筋群にどのような影響を及ぼし、その影響による痛みや機能不全をどう捉え、アプローチするべきなのかを書籍『強める!殿筋 殿筋から身体全体へアプローチ』から考えていきたい。

 

姿勢筋と相動筋

本書ではJanda,Vが筋肉を機能的に2つのグループに分類していることを紹介している。1つは「姿勢筋」、もう1つが「相動筋」である。姿勢筋の特徴を「重力に抵抗する役割を担い、安定させる」「負荷がかかると短縮する傾向を持つ」と解説し、腸腰筋がこれに当てはまるとしている。一方、相動筋の特徴は「主な機能が“動かすこと”」であり、「弛緩した結果として機能が抑制される傾向にある」とし、殿筋がこれに含まれると解説している。

さらに、姿勢筋と相動筋の関連性については、「硬くなる傾向にある筋肉(姿勢筋)が固縮すると、弱くなる傾向にある筋肉(相動筋)の働きを阻害され、弛緩し筋力低下が起きる」として、腸腰筋と殿筋の関係性を示している。

1●024-025

 

座位での腸腰筋と殿筋

股関節を解剖学的な視点から考えると、座位では股関節は常に屈曲位を強いられる。つまり腸腰筋が常に収縮し、短くなった状態にあるといえる。この状態が続けば、やがて腸腰筋はその状態で固まってしまう。また座位では股関節伸筋の代表である殿筋は長くなり、弱まる。

前述の姿勢筋と相動筋の関係性からも、座位によって腸腰筋が固縮することで、腸腰筋の働きも阻害され、筋力の低下が起きることが考えられる。

現れる症状

腸腰筋が硬く短くなり、殿筋の筋力低下が起きることで次にどんなことが起きると考えられるのだろうか。本書では、その一例として歩行への影響を紹介している。

2●044-045

「歩行するとき、股関節は自然と伸展しなければならない。しかし、緊張した機構が、股関節の自然な伸展を制限する。それを補うために、寛骨はさらに前傾する。それは大殿筋の活動スイッチをオフにし、ハムストリングの活動スイッチをオンにする。同時に、反対側の寛骨はさらに後傾する」

さらに、これらの代償動作の結果として、引き起こされる腰椎への影響について「腰椎の前弯が増加し、第4・第5腰椎間、第5腰椎・第1仙椎間の椎間関節への負荷の増加、それに伴い関連する椎間板の突出による神経根への負荷も増加する」と解説している。

 

筋トレだけでは機能は向上しない

では代償動作の結果から痛みや機能不全が起きたとき、治療者はどこに、どのようにアプローチするべきなのか。著者のJohn Gibbonsは、筋力低下を起こしている筋(この場合は殿筋)に単に筋力トレーニングを行うだけでは、機能向上は起きないと説いている。そして相反抑制の理論を用いて、「筋力低下をした筋肉の強化する前に、まず筋緊張や伸張の度合いを正常に戻すことから始めなければならない」として、筋緊張を緩める方法として股関節屈筋群へのマッスルエナジーテクニックや筋膜リリーステクニックを紹介している。

3●マッスルエナジーテクニック

 

身体のなかで最も軽視されている部位「殿筋」

本書のまえがきの中で著者のJohn Gibbonsは、殿筋について「理学療法において最も軽視されている部位の一つである」と述べている。近年、筋膜理論や体幹トレーニングが注目されるようになり、症状のある部位だけにアプローチするのではなく、根本的な原因を見極め、アプローチする考え方が浸透してきている。

本書は、大殿筋や中殿筋の機能解剖学や筋膜理論から姿勢や歩行を分析し、さまざまな検査によって殿筋の機能を評価する方法を紹介している。さらに機能不全を起こしている殿筋やその拮抗筋である腸腰筋の機能回復を促すためのマニュアルセラピーや、殿筋が原因で起こる腰や下肢の痛みについて解説し、殿筋群の安定性を高めるためのエクササイズ方法まで収録している。

4●160-161

殿筋という1つの筋肉から出発して、痛みや機能不全の根本を探る方法を本書は提示してくれる。治療の幅を広げるためのヒントが詰まった本書をぜひ参考にしてみてはいかがだろうか。

最新の研究知見を踏まえた「殿筋」をめぐる冒険治療家、アスレティックトレーナー必携の一冊。監訳は「KOBA式体幹バランストレーニング」を考案し、サッカー日本代表・長友佑都選手らトップアスリートを支える木場克己氏が務めた。