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Massage Today 第20回
明らかになった筋膜の自己修復―徒手療法を行う者への示唆―

2017.05.29

訳:桑原理恵(履正社医療スポーツ専門学校 鍼灸学科専任教員)
Reprinted with permission from Vol.16, Issue11(November,2016)of Massage Today. Massage Today Vol.16, Issue 11(November, 2016)より許諾を受けて、Leon Chaitow氏の記事を転載しています。Massage Today公式サイトもご参照ください。 www.massagetoday.com


2009年6月、Massage Todayに私の記事「Research in Water and Fascia: micro tornadoes, hydrogenated diamonds& nanocrystals(水と筋膜に関する研究:微旋風と水素化ダイヤモンドとナノ結晶)」(http://www.massagetoday.com/mpacms/mt/article.php?id=14012)が掲載された。この記事では、筋膜が、多彩な機能を発揮しながらにして、自己統制、自己保全、自己治癒の能力を持ち、その過程の形成には水が安定的に寄与していることについて、新しく重要な根拠を論じている。筋膜が持つ多くの役割を知らない読者のために、Box1にその役割のいくつかを、またBox2に留意すべきもう一つの側面であるメカノトランスダクション*について、まとめた。

筋膜の自己回復

結合組織である筋膜は、線維性コラーゲンの三重の螺旋構造で、それ自体が、細胞外基質、腱、骨、および他の耐荷重構造を支えたり、隔てたり、形作る役割を果たす。

Dittmore(2016)らによる新しい研究では、コラーゲンがどのよう過程で自己回復を行うのかについて、実験に基づく根拠を示すことができた。この研究者たちは、コラーゲン線維にある1ミクロン(100万分の1メートル)の大きさの、裂け目でもろくなっている接合部(cleavage-vulnerable binding regions)の存在を明らかにした。

コラーゲン線維が並んでいる状態は、(ほどけようとするのに抵抗するため相当なエネルギーを要しながら)その分子もそれなりに直線になっており、その状態はかなりの内的疲労を周期的に蓄積することなり、それが接合部でのねじれを引き起こすのである。これにより、酵素(メタロプロテナーゼまたはMMP:タンパク質分解酵素の1種類)がコラーゲンをねじれさせ、退化させることになり、それは、修復、再構築の過程が始まる直前に起こっている。

この研究は、線維性コラーゲンが、常に細胞レベルでコラーゲンを修復しながらそのように自らのメンテナンスを自己統制すると述べている。彼らおよび他の研究者も、この過程における組織の張力の重要性に気づいており、自己修復、再構築の連鎖は張力によるものであり、その組織において適切に張力が安定していれば、修復は(必要ないのだが)遅れることを意味している。

Susilo(2016)らのように、「自動的にかかる負荷は線維そのものの、または、線維と線維の相互作用に対して安定した変化をもたらす」と報告する研究者もいる

BOX1筋膜

 

BOX2

 Bhole(2009)らは「細胞の収縮力は、間質液(組織液)の圧力と身体活動によって細胞の分化の間にもたらされる圧力であり、線維にかかる圧力を変化させ、コラーゲンに負荷がかかるように働く」と言及している。私たちは、呼吸、他にもリズムを持った、例えば心拍、腸の収縮などの機能の役割についても検討すると、これらすべてが動きを生み出し、よってそれにより局所のコラーゲンの切断部位に影響がもたらされるのではないか(Gracovetsky2016)。

コラーゲン線維には、内側または外側から力が適切な張力を保てない場合、何十億ものねじれやすい脆弱な部分を有することになる。三重螺旋状のコラーゲン線維は、外への張力が適当でない場合には約1ミクロンの感覚で自然とねじれの(切断)部位を形成する。しかしながら、その線維の張力が適度であれば、ねじれの部位の数は少なくなり、張力がさらに高ければ、その部位は見られなくなる。

コラーゲンのねじれが起こると、これらの切断部位に特殊な酵素(細胞間マトリクス)をもたらし、酵素が関連した変性を起こし、続いて線維を強化し維持する修復の過程が起こる。これらの発見は、運動を通じて外側から負荷をもたらし、または、圧迫、せん断、伸張といった手技を用いることは、この動きを一定のものにする影響力となると思われる。

このことは、過度な緊張がもたらされた場合、この過程(とコラーゲン)に対して起きる自己統制に関する示唆に疑問を生じることになる。これらの自己統制の過程は、力の伝達・負荷の伝達、液の圧力、メカノトランスダクションなどに依存する神経システムとは、関係なく起こるメカニズムであり、興味深い(Humphrey2014)。多くの研究で、結合水が三重螺旋のコラーゲン線維を安定させていると報告している(Leikin1997, Bellla2016, De Simone2008)。

臨床における妥当性

結局どのような回答が得られるのか(すでにご存じであろうが)、推測するよりも、いくつか質問をする方が無難であろう。

・運動、または運動療法(ヨガ、太極拳、ピラティス、フェルデンクライスなど)は、どのようにコラーゲン繊維に関係した緊張状態、つまり修復のメカニズムに影響を及ぼしているのか

・外部からもたらされる負荷が、徒手療法(マッサージ、オステオパシー、カイロプラクティック、物理療法など)や自動運動を通じて緊張状態にどのように影響を及ぼしているのか

・Dittmoreらが述べていたように、コラーゲンの自己修復が、張力に依存しているとする場合、例えばオステオパシーのカウンターストレインの方法論やキネシオテープで見られるように、過剰な張力にある組織で負荷が得られない状態、もしくはマッサージで組織の緊張が緩んでいる状態では、どのように自己統制のメカニズムがコラーゲンの維持、修復を高めるように働くのだろうか。

・コラーゲンの自己修復において水の作用はどのような重要性を持っているのか、また、我々は、それに対してどのような最適な働きかけができるだろうか。

明確で細部にわたる説明を得るためには今後の研究を待つことになるであろうが、マッサージ、運動療法、徒手療法は、これらの基礎となる組織の自己統制や維持に重要な働きかけが可能であり実際に働いていることは明らかである。

徒手療法であろうと、運動療法であろうと、異なった体質、年齢なども踏まえ、特定の臨床例において適切な負荷を得るための適切な種類、度合い、方向性、時間、頻度を明らかにすることが課題となるであろう。

*機械的刺激(情報)を生化学的シグナルに変換すること(一般社団法人 日本細胞生物学会HPより)
http://www.jscb.gr.jp/glossary/category_glossary.php?category_id=23&category=mechanotransduction

References:

1.Bella J 2016 – Collagen structure: new tricks from a very old dog – Biochemical journal, 473 (8) 1001-1025  DOI: 10.1042BJ20151169l.
2.Bhole, A., et al., 2009. Mechanical strain enhances survivability of collagen micronetworks in the presence of collagenase: implications for load-bearing matrix growth and stability. Philos. Trans. R. Soc. Lond. A Math. Phys. Eng. Sci. 367 (1902), 3339-3362.
3.Chaitow L 2014 Fascial Dysfunction. Handspring Publishers, Scotland
4.De Simone A et al 2008 Role of hydration in collagen triple helix stabilization. Biochemical and biophysical research communications 372.1:121-125.
5.Dittmore, A., et al., 2016. Internal Strain Drives Spontaneous Periodic Buckling in Collagen and Regulates Remodeling.
6.Gracovetsky S 2016 Can fascia’s characteristics be influenced by manual therapy?. Journal of Bodywork & Movement Therapies. 10.1016/j.jbmt.2016.08.011
7.Humphrey, J., et al., 2014 Dec. Mechanotransduction and extracellular matrix homeostasis. Nat. Rev. Mol. Cell Biol. 15 (12):802-812.
8.Leikin S. et al. 1997 Raman spectral evidence for hydration forces between collagen triple helices. Proceedings of the National Academy of Sciences94.21:11312-11317.
Susilo, M.E., et al., 2016. Collagen Network Strengthening Following Cyclic Tensile Loading. www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/26855760.