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お皿洗いから見直す
疲れにくい「姿勢」と「身体の使い方」

2017.05.11


2016年11月2日に医道の日本社主催のセミナー「アレクサンダー・テクニークを体験しよう!」(講師:青木紀和氏)が開催された。セミナーでは、青木氏がアレクサンダー・テクニークに基づいた「立つ」「座る」「歩く」といった基本動作から、治療にも活かせる身体の使い方を解説した。ここでは、そのセミナーの様子をレポート。一部ではあるがその実践方法を紹介する。

アレクサンダー・テクニークが目指す有利な身体の支え方

セミナーの最初に、青木氏が参加者に実践してもらったのが「お皿洗い」。ただその場で普段やっているようにお皿洗いの動作をしてもらう。

「息が詰まっていませんか」

「お腹が緊張していませんか」

その動作を見ていた青木氏が質問をする。参加者は呼吸を無意識に止めてしまっていたり、頚や肩、腹筋に余計な力が入っていたり、自分の身体が必要以上に緊張していることに気づかされる。この過剰な緊張を取り除くのがアレクサンダー・テクニークだ。

1●

頚や肩、腹部の筋肉が過剰に緊張してしまうことで、背中が丸まった姿勢になりがちだ。この背中が丸まった姿勢によって制約されるのが呼吸だ。背中が丸くなれば物理的に横隔膜が圧迫される。また、頚や肩の筋肉は呼吸において補助的な働きをするため、それらの筋肉が緊張していれば、呼吸も浅くなり、深く大きな呼吸をすることが難しくなる。

腹筋が緊張した状態が続くと上半身が前傾した姿勢になりがちだ。しかし、実際には前に倒れることなく人は姿勢を維持しようとする。これは背筋が腹筋に拮抗して働くからで、腹筋の緊張が強まれば強まるほど、それを支えるために背筋も緊張することになる。青木氏はフォームローラーを人の構造に例えて、腹筋も背筋も緊張した状態を、両手でがっちりと押さえた状態(写真1)であると紹介した。本来、それ程の緊張を強いなくても、リラックスした状態(写真2)が維持できるはずだ。これがアレクサンダー・テクニークの目指す有利な身体の支え方だ。

写真1

写真1

写真2

写真2

身体を「置く」

では、有利な身体の支え方を実践するためにはどうしたらよいのだろうか。アレクサンダー・テクニークの身体の使い方で基本となるのがプレイシングという考え方だ。プレイシングは身体を筋肉の緊張で支えるのではなく、身体を置物のように捉えて、身体を「置く」という意識を持つことだ。

では、プレイシングを実践する方法を紹介しよう。

1.体重をべたっり足裏全体に乗せる

まずは、立位の際に足裏のどこに体重が乗っているのかを感じてみる。
青木氏によると「人によって異なるが、踵に体重を感じる人が多い」という。立位姿勢では身体を側面から見たとき、重心線は身体を脛骨と足の甲の交わる辺りに投射されている。踵に体重が乗っていると感じた人は、踵から足指まで、まんべんなく重さを感じる位置に重心を持っていくことが必要だ。

2.頭を最上段に位置づける

姿勢を正す際に、よく「背筋を伸ばす」と表現するが、この表現だと背筋が緊張して、胸を張りすぎる姿勢になってしまう。そこで青木氏は「まず身体の力を抜いて膝を曲げて、足の裏で床を踏んで頭を一番高い位置に持っていきましょう」「身長計で身長を稼ぐイメージ」と指導する。こうすると自然な形で背筋が伸びる。その時に気をつけることが、「頭を高い位置に持っていく」と言われるとつい顔を上に向けてしまうが、顔は正面を向いたままにすることだ。

 4●さしかえ  5●さしかえ

3.骨盤を立てる

骨盤の理想的な位置を探る方法として、殿部を少し突き出し、体幹を前かがみにする動き(写真3)と骨盤を前方に少し突き出し、体幹を後ろに傾ける動き(写真4)を交互に繰り返す運動を紹介している。骨盤が立つ理想的な位置について青木氏は「この前後運動が、ちょうど切り替わるあたり。もしくは太腿の前面にやや体重がかかる程度」と解説する。

写真3

写真3

写真4

写真4

1~3を実践することでアレクサンダー・テクニークの基本となる身体の「形」を作ることができる。この「形」に加えて重要なのが、呼吸の意識を高めることや筋肉を緩ませる「質」だ。セミナーではこの「形」と「質」を、青木氏が受講者に意識してもらいながら、立ち姿勢、座り姿勢、歩行、施術時の施術ポジションなどへの指導を行った。

8●指導


身体への意識を高める

アレクダンサー・テクニークの特徴の一つが、自分の身体に注意を向ける機会を提供してくれることだ。セミナーの参加者からも参加後のアンケートで「生活動作の中で自分の身体がいかに緊張しているのかに気づくことができた」などの感想が多数寄せられた。参加者の多くが治療者であり、普段から患者に向き合い、患者の身体を見ているが、なかなか自身の身体と向き合う機会は少ないのかもしれない。

編集部でもセミナー前に青木氏の指導のもと、アレクサンダー・テクニークを体験させてもらった。体験後は、ふとした瞬間に自分の身体に意識を向ける機会が多くなった。満員電車での通勤時、取材先に向かって歩いているとき、パソコンに向かってこの記事を書いているとき、家のソファでくつろぐときなど、以前に比べて、確実に意識が変わった。自分の身体のどこが緊張しているのか、どこで体重を支えているのか、リラックスして呼吸はできているか、などを気に掛けるようになった。

この身体への意識の変化は、最近、ストレス対策として話題になっている「マインドフルネス」の考え方に近い。マインドフルネスは、身体だけに目を向けるのではなく、周囲の環境や物、出来事にも注意を向けて、その瞬間への気づきを養うメソッドだ。マインドフルネスはすでに最新の研究でその効果が科学的に証明されはじめている。ここではマインドフルネスについて詳しくは触れないが、アレクダンサー・テクニークには、自分の身体への気づきを促すための要素が含まれている。治療者が自身の身体へ目を向けるのはもちろん、患者に指導して、患者の身体への意識が高まれば、治療への意欲も高まるのではないだろうか。

9●書影

青木紀和氏が監訳を務めた

『アレクサンダー・テクニーク完全読本』

●医道の日本社HP

http://www.idononippon.com/book/yoga/9025-3.html

●Amazon

http://amzn.to/2FTca7V