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【第5回】あはき住職が語る 禅的体操のエッセンス 気血を上げ下げする一人整体
2017.04.11


京都・嵐山薬師禅寺住職で鍼灸マッサージ師でもある樺島勝徳氏の考案した、簡素で静かな動きの体操を紹介する本連載。今回は樺島氏の目まい体験から、全身の筋緊張バランスの連動を解き明かす。


 

私がまだ30代半ばだった頃、ひどい目まいを経験したことがある。大阪から京都まで電車で移動する小1時間の間に3回もトイレに駆け込み、嘔吐した。呼吸も苦しく、目まいがひどくて歩けない。電車の駅から家まで500mの距離をタクシーに乗った。家にたどりつき、ベッドに横になると、天井がグワーっと回っている。家の者が「黒目がブルブル震えてるよ」と言う。その頃はまだ、0歳からの小児ぜんそくは全く治らないまま中年ぜんそくとなり、胃内停水は日常で、からだを揺すると胃袋がチャポチャポと音を立てていた。立ちくらみがひどかったのも覚えている。

治療家としての対処も思いつかず、ベッドに横になるばかりだったが、ふと面白いことに気づいた。目を開けていると天井が回るので気持ち悪く、目を閉じているのだが、このとき、眼球が震えているわけではなく、ただ左に流れていることに気づいたのである。

「眼球が左に流れているということは、眼球が意志とは関係なく動くということか!」

眼球が意志と関係なく動くということは、眼球の裏にくっついている筋肉が勝手に縮むということ。眼球の裏には六本の細い筋肉たちがくっついて眼球を上下左右に動かしているから、それが勝手な方向に縮むということは、六本の筋肉の緊張バランスが崩れている、ということを示す。今から思えば、目まいのなかでも脳みそはこれくらいのことは考えられたらしい。

一方、筋緊張のバランスは全身で連動する。操体法による骨格調整はいつものことだったから、「筋緊張のバランスは全身で連動する」という事実は、すでに私の常識であった。だったら眼球の裏の筋肉も連動するのではないか。家内に手伝ってもらって操体法による腰の調整をする。読みの通り、眼球が左に流れていく症状は和らいだ。「筋緊張のバランスは全身で連動し、その連動は眼球の裏にまで達する」のである。

黒目がブルブル震える理由は、次のように考えられる。からだの無意識は眼球を左に流そうとする。目を開けていると意識は正面を見ようとする。その力関係がギクシャクして、黒目がブルブル震える。外から観察すれば異様な状態だが、種明かしをすれば、こういう意識と無意識との相克と理解できる。

しかし操体法による骨格調整は10分くらいしか効いていない。それでまた調整をする。こんどは20分くらい効いている。こうして何度も調整を繰り返して徐々に症状は和らぎ、次の日には全快した。

だから目まいのときは腰の筋緊張バランスを修正すれば、それが全身に波及して目まいも治る。違うケースもあるだろうから正しく表現すると、「そういう場合もある」。

ひどい目まいが起こった原因を考えてみると、この日は、大阪朝日カルチャーでの坐禅指導で、気血を下げる一人整体をやりすぎた。坐禅では気海・丹田で呼吸をする。腰の固い人が多いので、気血を下げる一人整体を何回もして見せた。これがマズかった。当時、私のからだはまだ軟弱だったので、気血が下がり過ぎて戻らなくなってしまったのである。気血が下がりすぎると上虚下実となり、上半身のあらゆる機能が低下する。目まい・嘔吐・呼吸困難はすべて上半身の気血不足を示す。

気血を下げる一人整体は、写真1のようにうつ伏せに寝て、両下肢のみ浮かせてバタンと落とす。ポイントは両膝を閉じることと、肩を力ませないこと。肩に力が入ってしまう人には、両腕を腰のほうに置かせ、腰椎の5番あたりを押さえてあげながらこの動きをやらせると、少しはうまくいく。

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逆に、気血を上げる一人整体は、写真2のようにうつ伏せに寝て、上体のみ浮かせてバタンと落とす。下肢は浮かさない。ただし、これらの動きは腰痛のある人には禁忌である。また、操体法による骨格調整はいくつもの動きがあるので、ここでは省略する。

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黒目がブルブル震える、という症状に関しては「眼球振盪」(がんきゅうしんとう)またはその略である「眼振」で調べるとよい。

「眼振(眼球振盪)は眼球の不随意的往復運動である。(中略)眼振が自発的か否かにより、自発眼振と誘発眼振がある。(中略)眼振が生理的か病的化による分類があり、(後略)」(南山堂『医学大辞典』第18版より)

上記の通り、眼振は眼球の不随意的往復運動で、さまざまな基準で分類される。私のケースは、次のように整理できる。

「衝動性眼振」(一方へゆるやかに動き、他方へは速く動く)

「左向き水平性眼振」(眼振の方向が水平で、左方向へ速く動く)

「自発眼振」(正面注視で自発的に発症する病的な眼振)

眼球振盪の原因は、中枢・末梢の神経性のものとして解説がなされているが、骨格系全体のアンバランスとの関連と、それを利用した治療法は書かれていない。上述の『医学大辞典』でも同様である。だからこれらは私のケースを説明しておらず、意識と無意識との相克という視点も全くない。つまり、筋緊張バランスが全身で連動することは、まだ日本人の常識にはなっていない。それどころか、医療人や教育関係者の常識にもなっていないのである。私たち筋肉・骨格系のプロは、こういう方面から治療家としての身体観を深めていくべきだ、と思う。

プロフィール

1949年、福岡市生まれ。1974年、花園大学仏教学科を卒業。1982年、佛眼厚生学校(現・京都仏眼鍼灸理療専門学校)を卒業、はり師・きゅう師・あん摩マッサージ指圧師の資格を取得。京都・嵐山薬師禅寺住職。元・花園大学非常勤講師(東洋医学)。著書に『プチうつ 禅セラピー』(禅文化研究所)、『絵を見てできる禅的体操』(法研)など。