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Massage Today 第15回
知っていますか?マニュアルセラピーの適正量

Leon Chaitow, ND, DO

2016.12.20

訳:編集部
Reprinted with permission from Vol.16, Issue 06(June, 2016)of Massage Today.Massage Today Vol.16, Issue 06(June, 2016)より許諾を受けて、Leon Chaitow氏の記事を転載しています。Massage Today公式サイトもご参照ください。 www.massagetoday.com

 


マニュアルセラピーにおける適正量の重要性が、研究により、ゆっくりだが明らかになり始めている。あなたは、マニュアルセラピーの圧迫、伸長などの負荷荷重が、非常に小さな違いで、治療結果がポジティブになったり、ネガティブになったりすることを知って驚くかもしれない(筆者も驚いている)。

最近の研究では、マニュアルセラピーにおける以下の項目が、治療結果にポジティブ、ニュートラル、ネガティブに影響を及ぼすことが分かってきている。

・度合い(どれくらいの力?)

・継続時間(どれくらいの時間?)

・速度(どれくらいの速度で?)

・幅(どれくらいの距離?)

・頻度(何回?)

・方向

この項目には「特定の方法が単独または他と組み合わせて用いられたか(例:伸長と軽擦の組み合わせ)」「いつ他の方法を用いたか」「どんな姿勢で行ったか」といった他の変数も含めるべきだろう。これらを言い換えれば「どのくらいが多すぎで、どのくらいが少なすぎるのか?」という疑問になる。

治療を受ける患者のユニークな特徴、例えば性、年齢、過去と現在の病態、体力などはすべて、徒手治療への反応を変える要素であるというエビデンスも、明らかになりつつある(Dennenmoser, et al, 2015)。

手の外科医による最近の研究例では、新しいエビデンスを垣間見ることができる。Wang & Guo (2012)は、損傷を受けた腱が、伸長といった力学的な負荷を受けたとき、かなり異なる効果が現れることを示した。

腱を4%伸張させると、コラーゲン産生と腱の抗張力が減少し、組織の異化作用(分解)が増加し、外傷や外科手術後の治癒を遅らせた。しかし、腱を8%伸張させると、コラーゲン産生(修復プロセスでは必須となる)、腱の抗張力、さらに腱細胞への分化(新しい腱組織をつくるのに必要となる)を増加させ、癒着と炎症を減少させた。これにより、外傷や外科手術後の急速な治癒を促進した。一方で、12%の伸張は、コラーゲン産生とコラーゲン組織を減らし、炎症、浮腫、非腱細胞分化を増加させ、外傷や外科手術後の治癒を遅らせた。

これは基礎科学の研究である。しかしこの研究には、大きな疑問が残る。臨床において、効果的でない4%と12%ではなく、理想の8%に合致させるためには、腱の負荷の違いをどのようにして知ればよいのだろうか? という疑問である。

治療で理想的な負荷をかけるという臨床課題は、Zein-Hamoud & Standley(2015)による基礎科学研究で明らかにされている。Zein-Hamoud & Standleyは「力学的な力への反応における重要な構成要素は線維芽細胞である。この細胞は抗炎症性化学物質と成長因子を分泌することで、異なる種類の負荷に反応する(傾向がある)。それにより、創傷治癒と筋修復プロセスを改善する」と報告している。また、「等しくない二軸の負荷は線維芽細胞の形態に影響する。これは負荷により誘発された細胞性カルシウムイオン放出を媒介するアクチンが起因する可能性が高い」とも言及している。

Zein-Hamoud & Standleyの革新的な研究において、生物工学で作成された腱の損傷を修復する線維芽細胞の働きに関して、以下を確認している。

・約6%の負荷(伸長)と縦横二軸の方向(異なる強さと方向による二軸の負荷)で、4、5分間行うと、有益な効果があった。

・特に負荷が等二軸である場合(縦横の軸が等しい負荷となる)、「大きすぎる」または「小さすぎる」負荷を長時間行う、または十分な時間行わないと、治癒を遅らせてしまう。

ここで疑問が再び生じる。3%や12%は有益性が少なく、約6%は有益な力の強さであるという知見に合わせるために、軟部組織の負荷の違いをどうやって知ればよいのだろうか? このことは、多くの治療家がすでに知っていて、行っている。私の個人的な経験と意見としては、組織抵抗に合わせ、等しくない二軸の負荷で力を込めずに、制限に関与する方法(例えば筋膜リリースや優しいマッスル・エナジー・テクニック)は、負荷を積極的にかける方法よりも理想に近くなるということだ。

もちろん、上記の説明例は、方程式の治療部分を強調するだけであり、別の要素がある。それは誰の何を治療しているか、という要素である。

Dennenmoser et al (2015)は、力学的な摩擦の適用に関する研究結果を、以下のように説明している。

「電気インピーダンスは……ヒト組織内部の水の量を測定し、細胞内外の水分を区別するのに用いることができる。超音波弾性イメージングは、筋膜組織の物理的性質を直接明らかにできる。(治療)前後の組織厚と硬さの変化を定量化できる。」

Dennenmoser et alの研究結果は、数多くある特徴によって組織(筋と筋膜)の反応がかなり異なることを明らかにした。これらの特徴は治療法には部分的に関連するだけである。Dennenmoser et alは「筋組織と筋膜の組織は、腰部で軟化の効果が予想されるものの、個人の性、年齢、痛みの病歴、活動レベルにより異なって反応する」と報告している。

マニュアルセラピーの適正量に関しては研究が少なく、診療への「橋渡しが少ない」分野である。徒手療法に携わるすべての治療家は、最適な治療負荷を勧める教え方と訓練法に重点的に取り組む必要があるだろう。加えて、治療する個人と組織の特徴は、さらに注意を必要とする教育的課題といえそうだ。

参考文献

1.Chaitow L 2015 Manual therapies and hypoalgesia: What are the mechanisms? Journal of Bodywork and Movement Therapies, Volume 19(3):389-390.

2.Dennenmoser S et al 2015 Clinical mechanistic research: Manual and movement therapy directed at fascia electrical impedance and Sonoelastography as a tool for the examination of changes in lumbar fascia after tissue manipulation Journal of Bodywork and Movement Therapies, 20(1):145.

3.Voogt L et al. 2015 Analgesic effects of manual therapy in patients with musculoskeletal pain: a systematic review. Ther. 20(2):250-256.

4.Wang & Guo 2012 Tendon biomechanic & Mechanobiology Hand Therapy 25:133-140.

5.Zein-Hamoud M Standley P 2015 Modeled Osteopathic Manipulative Treatments. American Osteopathic Association 115(8):490-502.

 

プロフィール

Leon Chaitow博士は南アフリカで生まれた。それからロンドンに移り、オステオパシーと自然療法の訓練を受けた。1992年、ウエストミンスター大学のチームに加わり、健康総合科学部のコアカリキュラムとなるコースとモジュールを開発した。ウエストミンスター大学で10年間(2003年まで)、治療的なボディワーク(神経筋テクニックを含む)と自然療法の上級講師であった。大学を退職し、名誉フェローとなったLeon Chaitow博士はアメリカ、オーストラリア、ヨーロッパで活動的に教えている。治療手技、呼吸リハビリテーション、慢性痛といったトピックに関して75冊以上の本を執筆している。Chaitow博士はElsevierで現在2冊の主要な教科書『Physical Medicine Approaches to Chronic Pelvic Pain』と『Manual Therapies and Fascia』を執筆・共同編集している。

Chaitow博士の連絡先はこちら。www.leonchaitow.com.

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筋膜研究の第一人者として知られるLeon Chaitow氏が編者を務めた『筋膜障害アプローチ集(原題:FASCIAL DYSFUNCTION)』(仮)が来春発刊予定。臨床家たちによる筋膜障害に対する徒手療法の解説集です。