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医道日用綱目の養生法 千葉県鍼灸マッサージ師会学術講習会・元吉正幸氏講演録  第3回 増永静人氏の理論

元吉正幸

2016.04.27

医道日用綱目(壽保按摩法)と臨床動作法

~千葉県鍼灸マッサージ師会学術講習会・元吉正幸氏講演録~

 

第3回(最終回) 臨床動作法

千葉県鍼灸マッサージ師会学術部長・元吉正幸 


2016年2月21日、公益社団法人千葉県鍼灸マッサージ師会にて学術講演会が開催され、同会学術部長・元吉正幸氏が「鍼灸マッサージの科学的に考えた治療技術」と題した講演を行った。講演録第3回目(最終回)では、成瀬悟策氏の臨床動作法の概念とその手順について解説する。

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 これからお話しする臨床動作法を私は10年ぐらいやりました。実は私はすごく慎重なのです。なぜかと言うと、本を読んですぐに「臨床動作法を学んだ」「私は取り入れた」と言っても、そんなことないですよね。年数が必要ですよ。たとえば私は合気道をたしなんでいますが、習い始めて1カ月後に「私は習いましたよ」と言っても、下手くそですよね。

 

 実際、私が臨床動作法の名前を出し始めたのは、つい最近、2年くらい前からです。臨床動作法の学会参加のために秋田県や琉球大学での研修に参加するなど、お金もかかっています。学会の会員約700人が臨床心理士などの心理職を中心とした構成で、そのうちの百十数人が臨床動作士という認定者ですが、私は106番目の臨床動作士となりました。106番目にして初めて鍼灸マッサージ師が入ったというような現状となっています。

 

 さて、今日はその臨床動作法を行いたいと思っていますが、その前に概要を説明します。開発したのは、九州大学名誉教授の成瀬悟策先生です。簡単に言ってしまうと、臨床動作法はジェイコブソンの漸進的筋弛緩法を応用してつくられた心理療法となっています。成瀬先生は70年におよぶ心理研究、心理療法家ですが、「こころとからだの調和」の心理療法として30年ほど前から動作訓練を肢体不自由児の方に応用されており、実績を重ね、現在は教育、健康、スポーツ、高齢者、災害時に活かす動作法として発展しています。

 

臨床動作法

・九州大学名誉教授の成瀬悟策が開発した心理療法。

・漸進的筋弛緩法を応用。

・姿勢や動作を見るだけで、相手にある印象を抱き、相手のことを分かってしまうことはめずらしくない。姿勢や動作を今よりよりよいものに変えていくことを通じて、自分の生き方をこうありたいと望む方向に変えていく。

 

ジェイコブソンの漸進的筋弛緩法

・意識的に自分で筋肉を緊張させておいて、そこを弛緩させることで「こころ」と「身体」のリラクセーションを得る。

・成瀬は催眠と併用して漸進的筋弛緩法を使うと催眠覚醒後も筋弛緩が持続するだけでなく、必要なときに自己弛緩できることを認めた。

・催眠なしでも効果のある臨床動作法を心理療法として開発した。

 

 キーワードは筋肉の自己弛緩です。漸進的筋弛緩法はジェイコブソンが1929年に開発しています。これだけでもとてもいいです。臨床動作法ではセラピストの他動的手技ではなく、クライアントが主体的に肩を反らせたり、躯幹を捻ったりする課題を与え、筋肉の自己弛緩の努力により、こころの問題に効果を上げています。いろいろあるのですが、今日は一番わかりやすいので、あとで躯幹ひねりをやってみましょう。

 増永静人先生は手でトーヌス(緊張)を取り、患者の心理面まで言及されていました。増永先生の横臥調整は、躯幹ひねりに相似しています。さすがに京都大学の哲学・心理学部まで出ておられた方だなあと感じます。

 

 細かい説明は省きますが、臨床動作法というのは、以下の手順で行います。

 

臨床動作法の手順

・臨床動作法の紹介

・患者さんが考えるストレスについてカウンセリング

・漸進的筋弛緩法(手首反らせの指導)

・肩挙げ・肩降ろし課題(肩の力を十分に抜き、気持ちよさを感じる)

・肩反らせ

・躯幹ひねり

・腰ゆるめ

・立位軸立て

 

 このとき大事になるのが筋肉の緊張やそれによる身体の歪みの見立てです。臨床動作法では、慢性緊張、不当緊張、随伴緊張、居座り緊張の4つに分けています(鶴光代『臨床動作法への招待』金剛出版)。我々はこりのプロですから、慢性に緊張していればわかりますよね。不当緊張や随伴緊張は、不安や「あがり」などの「こころ」が反映され、筋肉の緊張として現れたものです。そのようなストレス状態から、借金で首が回らないなどの持続的な緊張があると、居座り緊張となります。

 

 臨床動作法は心理療法です、私は臨床心理に興味を持ち、「こころ」から「身体」への会話中心の心理療法を学びましたが、それだけでは難しい壁にあたり、「身体」から「こころ」への心理療法を鍼灸やマッサージの臨床に応用しています。不登校の患者さんや脳幹出血後の患者さん、パーキンソン病の患者さんなどに大きな手ごたえがあります。不登校の患者さんは頻繁な片頭痛がありましたが。臨床動作法を行ううちに片頭痛の発作回数も次第に減り、大学を受験して、運動部の同好会も楽しめるようになりました。今は元気に社会人として働いています。8年くらいのお付き合いでしたが、すっかり良くなって私から巣立っていきました。治療者冥利に尽きますよね。また、指圧やマッサージをすると、「揉んでもらうと楽になるけど、すぐ元に戻るよ」と、鍼灸・マッサージ指圧師泣かせの患者さんっていませんか? そういう方にも最後に鍼灸や指圧の施術後に臨床動作法を併用すると、非常に良い結果を得ています

 

 また、身体が痛い、体調が悪いという方は、体の感覚がわかなくなっている、無感覚症になっている場合もあります。臨床動作法を行うことで体の感覚を取り戻し、気分が変わり、今まで気になっていることが気にならなくなるなどの「こころ」の変化が得られてきますので。ぜひ応用してみてください。

 

 では実際にやってみましょう。先生、またモデルをお願いします。まず座ってください。臨床動作法では「タテ」、つまり立位と座位で行う課題が多いのですが、もともとは肢体不自由の方を対象にしていたので、しっかりと自分自身で不必要な緊張なく背骨を立たせるなど、足をしっかり踏みしめる課題が多くなっています。

 

 座位のときに見逃してはいけないのは、平らかに座しているかどうか、ということです。平らかに座したというのは、あぐらではありません。あぐらは骨盤が不安定なので、そうではなく足を少し互い違いぐらいにしましょう。すると骨盤が安定し、不必要な緊張も出なくなります。次に両手を握り、それを前に突き出しましょう。前に突き出したら、胸のところまで両手を戻します。戻すときに、手のひらが前を向くように手をひっくり返しましょう。これを繰り返します。

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 あぐらよりもっとゆるやかに座る方法を指示する元吉氏

 

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座位の状態から両手を組み、伸ばすだけ伸ばす

 

 これ(上の写真)は臨床動作ではなく、壽保按摩法です(第1回の講演録参照)。ですが、壽保按摩法の座り方の図も、臨床動作法の座り方なので参考にしてください。この動作にも臨床動作法の考え方が入っています。今日は臨床動作法のひとつひとつの課題はできないので、導引や増永先生の指圧とどのように共通しているかを感じていただきたいと思います。手を伸ばしたときに緊張しますね。この緊張を感じながら、ゆるんだらいいなーと思っているとゆるんでくる。そうしたら手の先をもうちょっと伸ばしてみる。1ミリでもいいです。そしてまた緊張が出たらそこでゆるむのを待ち、もっと行けるなと思ったらまた手の先をゆるめてみます。おそらく壽保按摩法の目的はこのような動作だと思うのです。私は臨床動作法を通して、その目的に気づきました。

 

 このときの呼吸についてですが、臨床動作法では呼吸は意識しません、呼吸を意識しちゃうと筋肉が緊張しちゃう。だから呼吸は全然考えない。考えないで自分の身体の緊張が自分自身でゆるめることができるようになると、呼吸も整ってきます。また呼吸で身体をゆるめようとすると自分自身で身体をゆるめようとするのに邪魔になります。呼吸法はまた別に行うことはあります。動きのスピードについても早すぎるとただの体操になってしまうので、じっくりとやることがとても大切です。

 

臨床動作法の躯幹ひねりの実践

 時間がないので、臨床動作法の躯幹ひねりを行っていきましょう。ただ今回お見せするのは成瀬悟策氏の一番初めの教え子で、現在は九州大学名誉教授になられている大野博之氏の「主動型リラクセーション療法」の方法もミックスしています。この方法は1人でもできるように開発されており、どうしても手技で治療してやろうと思うと、臨床動作法の目的から外れ、「こころ」に届きにくくなるからです。実は私は1回目の臨床動作士の実技試験で落第しています。それは私があまりに他動運動を使うことが多く。それでは臨床動作法とは言えないということで、確かにその私の悪いクセ?に気づくと、今まで苦手であったクライアントの動作で「こころ」への応援方法の手ごたえを感じられるようになりました。

 

 これは側臥位から始めます。側臥位の状態から両手を前にゆっくり伸ばし、掌を重ね、そこからさらに上の手を前に伸ばしていきます。壽保按摩法の片手版みたいな要領です。これは五十肩などにもとても良いです。次に天井に向かって上のほうの腕を挙上させていき、背中(躯幹)を捻っていきます。このとき背中が固いと腰の捻りが強くなるので注意してください。またストレッチングみたいに筋肉を伸ばすのでなく、大事なのは主体的(主動的)に動作課題で筋肉をゆるめるという意識です。肢体不自由児は筋肉が全然なくても動けます。いろいろな理由がありますが、拮抗筋が緊張しているから上肢が上がらない場合などは、それをゆるめてあげれば、協同筋がうまく働き、腕が上がることの現象が臨床動作法の事始めだったのです。

 

 それはさておき、腕を挙げたら、そのまま背中のほうに倒していきます。いけるところまで行って緊張を抜いてゆるませます。何回か繰り返します。術者が抵抗をかけて、その力に反発するようにするやり方もあります。それが終わったら、上のほうの脚を前に出して、同じように行けるところまで行ってゆるめます。これが躯幹ひねりです。今回は臨床動作法に主動的リラクセーションをミックスした元吉流になっていますが、現在の日常臨床での私の方法をお見せしているので、正確な方法は参考図書で学ばれるようお願いいたします。

 

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躯幹ひねり。まずは側臥位で腕を前に伸ばす

 

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腕を広げ、脚を交差する

 

 この方法は身体全体に効きますから、顎関節症や片頭痛の患者さんにも良いです。片頭痛の患者さんはリラックスしすぎると発作が起こったりします。私の経験ですが、頭の筋肉の血流を良くしようと施術したら、そのあと発作が起こることがありました。それからは臨床動作法を用いて遠隔部からリラックスをするようにしています。穏やかに全体的にリラックスしていくと、いつの間にか片頭痛の発作も少なくなるという結果が得られるようになりました。機会があれば、もっと詳しく紹介したいと思います。エッセンスだけでも感じとっていただければと思います。

 

鍼灸治療、按摩マッサージ指圧も「こころ」に届く

 短い時間でしたが、なぜ今回、壽保按摩法(第1回)、増永静人氏の指圧(第2回)、臨床動作法(第3回)を同時に紹介したかというと、それぞれの共通点を知っていただければ、心理療法として、効果のあるものだということを実感いただけると思ったからです。また臨床動作法は科学として再現性のある動作課題と体の見立ての記録、「こころ」の変化の記録などをとり、ケース研究が行われているので、非常にわかりやすくなっています。しかし「一朝一夕」にいかず、「ローマは1日にしてならず」です。

 今回は私が10年以上かけて学んだことを応用した形で臨臨床動作法を紹介いたしました。主体的(主動的)動作とは何かに気づきながら心理療法として行うには、素直に純情に今後も成瀬先生を始めとしたスーパーバイザーの教えに従い、日常臨床に役立てていきたいと思っています。

 

 また私は精神保健福祉士として、クライアントの「こころ」のつらさに対してどのように応援していけるだろうかと考えてきました。そして動作から主体的(主動的)に筋肉をゆるめる臨床動作法の技法を修得し、手てごたえを感じています。一方で、鍼灸治療、按摩マッサージ指圧も「こころ」に届く本質は共通していると思っています。今後はうつ病などの精神疾患など各論に絞り、お話しする機会があればと思います。

 

 

本稿は元吉氏の許可を得て、講演内容に加筆・修正して掲載しています。

 

【参考図書】

 

姿勢のふしぎ―しなやかな体と心が健康をつくる (ブルーバックス)

111

著:成瀬悟策

発行:講談社

発行年:1998年

定価:886円(税込)

 

 

臨床動作法への招待

112

著:鶴光代

発行:金剛出版

出版年:2007年

定価:3,360円(税込)

 

臨床動作法:心理療法、動作訓練、教育、スポーツ、高齢者、災害に活かす動作法

臨床動作法

著:成瀬悟策

発行:誠信書房

出版年:2016年

定価:3,240円(税込)

プロフィール

元吉正幸(もとよし・まさゆき)

1961年、千葉県生まれ。1982年、東京柔道整復学院卒業。1987年、東京衛生学園専門学校卒業。1989年、東京医療専門学校鍼灸教員養成科卒業、八王子で開業。1996年、千葉県勝浦市で元吉接骨院・南風堂鍼灸治療室開業。2001年、放送大学教養学部卒業。2004年、東京福祉教育専門学校卒業。2000年から2012年まで東京医療専門学校鍼灸マッサージ教員養成科非常勤講師。