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Massage Today 第2回 仙腸関節の機能不全とマッサージの役割

Whitney Lowe, LMT

2015.12.17

仙腸関節の機能不全とマッサージの役割

Whitney Lowe, LMT

 

訳:編集部

Reprinted with permission from Vol.12, Issue 05(May, 2012)of Massage Today.Massage  Today Vol.12, Issue 05(May, 2012)より許諾を受けて、Whitney Lowe氏の仙腸関節に関する論文を転載しています。Massage Today公式サイトもご参照ください。

www.massagetoday.com


Quadratus-Femoris

腰椎・骨盤部の痛みは、アメリカ人の約4分の3に影響を及ぼすほど一般的な訴えである。マッサージセラピストとして、我々はこれらの訴えに対して、筋肉に原因を求める傾向がある。しかし、筋線維に注目しすぎると、患者の重要な訴えを見逃すことになりかねない。仙腸関節は、腰椎・骨盤部の痛みの原因として頻度が高い。仙腸関節は身体にある他の多くの部位とは異なる。関節の機能不全から生じる障害を抱える、たくさんの人々に最善の手助けをするために、解剖、バイオメカニクス、関連組織の包括的な理解が必要となる。

 

1.解剖学的組織

仙腸関節を詳細に探るための出発点は、やはり解剖学にある。身体の大部分の関節は、一連の運動を通じて互いに滑走する2つのなめらかな関節面から成る。しかし、これは仙腸関節にはあてはまらない。仙骨と腸骨の間の関節の形成面は、でこぼこで、不規則な面となっている。この関節面は、パズルのピースのようにはまるようになっている。それぞれの不規則な面が合わさることで、高い安定性を与えている。残念なことに、これらの不規則な面が正しく合わさらないケース、すなわち仙腸関節の機能不全では、大きな痛みを伴い、深刻なバイオメカニクス的な問題を生じる場合がある。

仙腸関節の解剖学的組織における重要なポイントの2番目は、関節間の多数の靭帯組織である。これらの靭帯複合体は、仙腸関節をバイオメカニクス的に理解するための重要な手がかりを与えてくれる。仙腸関節は靭帯にきつく結びついているため、運動はごくわずかしか生じない。靭帯の網の目は、主に体重を上半身から骨盤へ移す手助けをする。それでいて接合部で可動性を少し与えている。この部位を安定させている重要な靭帯は前仙腸靱帯、後仙腸靭帯、仙結節靱帯、仙棘靭帯、腸腰靭帯である。

また、仙腸関節における解剖学的組織の興味深い側面の1つは、仙腸関節にかかる筋肉に関するものである。身体の大部分では、関節での運動は、関節と骨に付着する筋肉によって制御される。これは仙腸関節にはあてはまらない。仙骨から腸骨まで直接かかる筋肉が存在しないからである。仙腸関節を横切る筋肉は多数あるが、これらの筋肉は他の関節も横切っている。そのため、この部位の筋肉を治療して仙腸関節の機能不全を改善するには、仙腸関節の近位と遠位にある筋肉の役割について深く理解することが必要になる。

2.バイオメカニカクス的問題

一見すれば、仙骨は左右の寛骨の間できつく留められているかのように見えるだろう。寛骨は、腸骨、坐骨、恥骨が組み合わさっている。しかし、仙骨が寛骨の間できつく留められているなら、痛みを伴うだけでなく、高レベルの摩擦により運動が生じるのは難しいだろう。代わりに、関節周辺をはりめぐらす多数の靭帯組織は、この関節で吊りひものように作用して、仙骨を吊るし、保持する。これにより、大きな安定性を維持する一方で、運動をわずかながら可能にしている。

仙腸関節で可能なわずかな運動は、寛骨に関連した仙骨の前方・後方への傾斜である。仙骨の前方への傾斜は前傾と呼ばれ、後方への傾斜は後傾と呼ばれる。前傾と後傾は、寛骨と仙骨の間の小さな運動に必要である。歩行と走行のストライドでは、片方の股関節は屈曲し、もう一方は伸展する。骨盤両側の対向運動は、両側の仙腸関節のわずかな運動を必要とする。両側の仙腸関節のわずかな運動が利用できないと、関節力学で大きな変化が生じ、深刻な痛みが生じる。

さまざまな姿勢の歪みは、両側の仙腸関節でアライメントの問題を引き起こす。骨盤の側方傾斜、ならびに前部・後部骨盤の回旋は、それぞれ仙腸関節で多数の有害なバイオメカニクス的問題を引き起こす。これらの複合的な問題は、腰痛ならびに下肢への放散痛を生じさせる。下肢にも広がる腰痛は神経根レベルの神経障害から生じると考えたくなるかもしれない。しかし、実際は仙腸関節の障害が原因の可能性もあるのだ。腰椎の神経根や椎間板をターゲットにした治療は、このケースでは効果が出ないだろう。

仙腸関節の機能不全治療におけるマッサージの役割

仙腸関節障害は決まって痛みと身体的な障害を引き起こす。マッサージの施術者は関節機能不全で主に必要なのがマッサージであるとは考えない。大部分のマッサージ治療における重点は筋肉を対象とした施術となっているためである。しかし、施術者が覚えておきたいのは、多数の軟部組織が仙腸関節と近くの、もしくは離れた部位にかかっていて、関節力学に重要な影響を及ぼすということである。これはマッサージセラピーに価値ある理論的根拠を与えてくれる。

マッサージの重要な役割を理解するためのわかりやすい例は、この部位に存在する多くの筋膜結合を単純に見ればよい。ハムストリングと仙結節靭帯の間には筋膜結合がある。従って、ハムストリングの過剰な緊張は仙結節靭帯を通して伝わり、仙骨に逆の牽引力を与え、機能不全を引き起こす可能性がある。類似の筋膜結合は、脊柱起立筋と後仙腸靭帯の複合体の間にもある。腰部伸筋群の慢性的な緊張は直接仙骨に伝わり、仙腸関節の力学を変えて、痛みの原因となる。これらの脊柱伸筋群へのマッサージ治療は、関節力学の機能不全を正常化する上で鍵となる要因になるかもしれない。

また、筋膜結合は大殿筋と仙結節靭帯の間にもある。大殿筋も、下位の腰背筋膜と筋膜連続性がある。腰背筋膜は広背筋に融合する。これらの筋膜結合はすべて仙腸関節のバイオメカニクスに対して有益または有害な影響をもたらす可能性がある。多数の筋膜結合はこの部位にあるため、これらの軟部組織へのマッサージが仙腸関節の最適な関節力学を維持するうえで重要な役割を果たすのは明らかである。けれでも、この部位における複雑な解剖学的組織とバイオメカニクスのしっかりとした土台なくして、適切な介入(治療)を行うのは難しいだろう。

運動専門家は、この部位の複雑な解剖学的・バイオメカニクス的関係を正確に伝えるワーキング・モデルをまだ作成している段階である。しかし、現在、我々は少し前から仙腸関節の関節力学に関するずっと多くのことを理解している。この部位の多数の筋膜結合とともに、関節組織とその機能をよく理解しているマッサージセラピストは、これらの一般的な訴えに苦しむ患者をずっと効果的に手助けするだろう。

プロフィール

Whitney Lowe LMT

『Orthopedic Assessment in Massage Therapy』『Orthopedic Massage:Theory and Technique』などの著書や長年にわたる臨床を通じて、アメリカではマッサージによる痛み・障害治療の第一人者として知られる。1994年、マッサージ師に整形外科マッサージおよび軟部組織異常を治療するのに必要となる高度な教育を提供するOrthopedic Massage Education and Research Institute(OMERI)を設立。現在、Journal of Bodywork and Movement Therapiesの編集委員も務める。