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Massage Today 第1回 骨盤前傾を探る

Whitney Lowe

2015.09.30

骨盤前傾を探る Whitney Lowe, LMT

IMG_1302 訳:編集部 Reprinted with permission from Vol.14, Issue 07(July, 2014)of Massage Today.Massage Today Vol.14, Issue 07(July, 2014)より許諾を受けて、Whitney Lowe氏の骨盤に関する論文を転載しています。Massage Today公式サイトもご参照ください。www.massagetoday.com なお本稿の初出は医道の日本2015年10月号です。 腰椎・骨盤部の痛みは一般的な訴えであるが、多くの標準的な腰痛治療で治せるとは限らない。多くの人の場合、一部の治療は有効であっても、病態は継続する。根底にある姿勢や組織的偏りが適切に対処されないために、痛みの問題が頻繁に存在する。考慮すべき姿勢の問題の一つが、多くの形で腰椎・骨盤部の痛みに関与する骨盤前傾である。 ヒトの直立姿勢と移動運動は、骨盤のバイオメカニクス的なバランスに問題を引き起こす。上半身の体重と力は、骨盤を通して2本の下肢に伝達・分散する。骨盤が適切に配置されないと、多くのバイオメカニクス的問題が生じ、痛みを伴い、消耗する。これから骨盤前傾の構成要素、そのいくつかの有害な影響、そしてそれを解決するうえでマッサージがどのような役割を果たすか見ていこう。   1.  背景 骨盤は寛骨と呼ばれる左右の骨から構成されるが、考察のために、骨盤全体を対象にしていく。左右の寛骨はそれぞれ独立して動くことができるが、ほとんどの姿勢の歪みは左右両方の寛骨のアライメントがずれて起こる。 骨盤前傾は、骨盤が矢状面で前方に回旋するときに起こる。仙骨は2つの寛骨の間にしっかりと留められていて、骨盤が前方に傾くときに、仙骨も一緒に動く。仙骨はL5の椎骨にしっかりとつながり、L5の椎骨は隣接する椎骨につながっている。仙骨が前方へ傾くと、下位腰椎が続いて前方に傾き、同時に腰椎の前弯を強調させる。 骨盤前傾には自然な角度があり、適切な運動や衝撃吸収に必要となる。傾斜の角度が高すぎると、機能障害性の前傾と考えられる。しかし、角度計なしで前傾の正確な角度を測定するのは難しい。そのため多くの臨床家は、傾斜が過剰かどうか決めるのに、おおよその基準線を用いている。 しかし、前傾を見極めるのが難しいからといって、それを無視してもよいというわけではない。マッサージ師は角度計で正しく測定するための訓練を受けていないかもしれないが、骨盤傾斜が患者の痛みに寄与している因子かどうか決める簡単なヒントがある。視覚的検査で傾斜を評価する一つのやり方は、患者を側面から見ることである。上後腸骨棘(PSIS)に指を1本置き、上前腸骨棘(ASIS)にもう片方の手の指を置く。ASISが1.3㎝以上低い位置にあれば(女性はさらに少し低ければ)、機能障害性の骨盤前傾と考えられる(1   2 有害な影響 腰部の脊柱がある程度弯曲するのは、脊柱の適切な衝撃吸収のために必要となる。しかし、過剰な脊柱の前弯は多数の問題を生じる。脊柱の前弯が増加すると、脊柱の椎間関節に圧迫が生じる(2)。椎間関節への圧迫の増加は脊柱の痛み、刺激、そして関節炎による変形にもつながる。   脊柱前弯の増加は腰椎伸筋群の過緊張によって、しばしば引き起こされる。この筋群の緊張は、過剰な前傾の原因でもあり、結果でもある。下部交差症候群(Lower crossed syndrome)として知られる姿勢パターンでは、腰椎伸筋群は多くの場合、腸腰筋とともに硬くなっている(Chaitow, Delany vol.1, 2000)。筋緊張が前傾に関与し、姿勢パターンとして永続的に補強されるために、筋緊張と姿勢の歪みの悪循環が起こる。慢性的な緊張の結果として、腰椎伸筋群における筋膜のトリガーポイントが生じる可能性もある。 脊柱前弯の増加は椎間孔を狭め、神経根の圧迫につながる可能性がある。椎間孔の端に沿って骨棘やほかの妨害物があり、過剰な前弯により神経を侵害する場合、神経根圧迫のリスクは増加する。   前傾の別の有害な影響は、仙腸関節で生じる。仙腸関節ではほんのわずかな程度の運動がある。この関節の大部分はしっかりとつながり、両側にある仙骨と腸骨が互いにほとんど固定されている。骨盤前傾は仙腸関節の負荷力を変えてしまい、しばしば仙腸関節の痛みと機能不全の原因となる。 これらの潜在的影響力の大部分は明白なものとなっている。しかし、ハムストリングの肉離れのリスクが上昇するというような分かりにくい例もある。骨盤が前傾するとき、坐骨結節は上方へ上がり、ハムストリングに大きな引張応力を与える。特に活発な人では、引張荷重の上昇はハムストリングの肉離れの発症率増加につながる。   3 治療 では、マッサージには、この問題に対処する役割があるだろうか。軟部組織に対する治療の役割はあるが、最も有効な治療計画をつくるうえで論争と誤解もある。 骨盤前傾を治療する際、臨床家が犯す最大の誤りの一つは治療戦略を単純化しすぎることである。例えば過剰な前傾の人を横から見る場合、腰椎伸筋群が硬く、腹筋は弱って伸長しているように見えるだろう。これは正しい。誤りなのは、両足を床にしっかりつけて行う腹筋運動やクランチのような標準の腹筋エクササイズにより腹筋を強化することで、この歪みに対処しようとすることである。 腹筋運動で両足を床にしっかりつけるのはクローズドキネティックチェーン・エクササイズと呼ばれる。残念なことに、クローズドキネティックチェーンの姿勢で腹筋運動を行うと、腸腰筋を特に強化することになる。腸腰筋の緊張がこの病態の増悪因子であるため、この筋肉を強化することは意図した治療目的とは逆になってしまう。   骨盤前傾に対する治療戦略の鍵となる目的は、腰椎伸筋群と腸腰筋の緊張を減らすことである。多くの場合、弱く、過剰に伸長しているように見える腹筋は、エクササイズが不足しているから弱っているわけではない。それよりも、硬い腰椎伸筋群(腹筋の拮抗筋)により神経学的に阻害されて弱っているのである。腰椎伸筋群の緊張を減らすことは多くの場合、腹筋を正常な緊張レベルまで回復させる。さまざまなマッサージ・テクニックは、腰椎伸筋群の過緊張を減らすことを直接狙うことができる。 また、骨盤前傾を対象にするマッサージ師が犯すもう一つの最大の誤りは、筋緊張を減らすことが適切な骨盤姿勢を回復するという考えによって、軟部組織の治療のみに集中してしまうことである。残念なことに、これはまれに起こる。骨盤前傾のような姿勢の歪みは、習慣的に促進することで生じる。これらの筋肉に素晴らしいマッサージを行っても、患者のある種の習慣的パターンに対処しなければ、歪んだ姿勢に逆戻りしてしまうだろう。 機能障害性の姿勢パターンは、新しく、正しい姿勢に適応させた一定の強化により、変える必要がある。アレキサンダー・テクニック、ヨガ、フェルデンクライスのような特定の治療システムは、機能障害性の姿勢を緩和し、姿勢の意識を改善することを目的とする。しかし、患者がこれらの練習を取り入れなければならないわけではない。   時には、単純に新しい姿勢を患者に教えるだけで、患者自身に意識させて、変化を可能な限り促進することができる。患者の家や仕事場での人間工学を調べてもらうのも重要である。患者は仕事場で机に前かがみ姿勢をとる傾向があるだろうか(図3)。患者は立位姿勢が長いか。小さいブロックに片足を置くことができるか。ストレッチする休み時間を多くとれるか。よいストレッチのやり方ができているか。  臨床家としての我々の目的は、各個人のバイオメカニクス的圧力をできる限り理解することである。そうすれば、最も有益な効果を得る確かな治療戦略をつくることができる。同時に、骨盤前傾の存在が上記の有害な病態を必ず引き起こすわけではないことを考慮すること。前傾でも問題を起こさない人はいる。そのため施術者は、骨盤傾斜が患者の痛みに対する増悪因子なのか、よく考えて決める必要がある。

[caption id="attachment_5257" align="alignleft" width="161"]図1 指を使った骨盤前傾の検査 図1 指を使った骨盤前傾の検査[/caption] [caption id="attachment_5261" align="alignleft" width="166"]図2 過剰な腰椎前弯による椎間関節への圧迫 図2 過剰な腰椎前弯による椎間関節への圧迫[/caption] [caption id="attachment_5173" align="alignright" width="387"]図3 座位における正しい姿勢を患者に指導する 図3 座位における正しい姿勢を患者に指導する[/caption]