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Massage Today 第11回  それはテニス肘ではないかもしれない

Whitney Lowe, LMT

2016.08.04

それはテニス肘ではないかもしれない

By Whitney Lowe, LMT

訳:編集部

Reprinted with permission from Vol.15, Issue 11(November, 2015)of Massage Today.Massage Today Vol.15, Issue 11(November, 2015)より許諾を受けて、Whitney Lowe氏の記事を転載しています。
Massage Today公式サイトもご参照ください。
www.massagetoday.com


「テニス肘」と呼ばれる上腕骨外側上顆炎は、上肢の酷使で生じる最も一般的な病態の一つである。かつては、裂けた腱線維が炎症した状態だとされていたが、現在では、腱内部の非炎症性のコラーゲン変性から生じていることが分かっている。

テニス肘へのマッサージは、非常に効果的だ。腱を圧迫しながら動かすことで、線維芽細胞の増殖を促し、損傷したコラーゲンを再生させてくれる。

しかし、上腕骨外側上顆炎の症状である、肘外側と前腕の痛みは、他の原因からも生じる場合がある。他の原因によるものにもかかわらず、上腕骨外側上顆炎への標準的治療である肘外側へ深部摩擦マッサージを行ってしまうと、症状を悪化させてしまうおそれがある。もし、上腕骨外側上顆炎への標準的治療を行っても、効果がない場合は、機能不全は別にあるかもしれない。

上腕骨外側上顆炎とよく間違えられるのが、橈骨管症候群(radial tunnel syndrome:RTS)である。橈骨神経を圧迫する橈骨管症候群は、症状がテニス肘に非常に類似しているものの、標準治療に耐性を示すため、「難治性テニス肘」ともよく言われる。

 

解剖学的背景

上腕の橈骨神経は、上腕骨の橈骨神経溝に沿って、上腕の後面を流れる。それから、前腕に進む前に肘の前面を横切る。肘より遠位で、橈骨神経は2つの末端の分枝(浅枝と深枝)に分かれる。橈骨神経の浅枝は感覚神経線維であり、後骨間神経を構成する深枝は主に運動神経線維である。橈骨管症候群に関わるのは後骨間神経ということになる。

回外筋には2つの区分がある。1つは上腕骨の外側上顆から離れ、外側側副靱帯と橈骨輪状靱帯から起始する。もう一つの区分は、回外筋稜と肘窩に起始している(図1)。

図1 

(図1)

 

 

後骨間神経は橈骨神経管に入ると、回外筋の2つの区分の間を通る。橈骨神経管は、短橈側手根伸筋、長橈側手根伸筋、腕橈骨筋の腱によって、片側に接している。上腕二頭筋と上腕筋の腱は、橈骨神経管の逆側の壁を構成する。腕橈(上腕骨小頭と橈骨)関節の関節包は、橈骨神経管の底を構成する。1

 

病理学

橈骨神経管における後骨間神経の圧迫は、橈骨管症候群として知られている。この部位で橈骨神経の圧迫を生じさせるいくつかの異なる要因がある。肘の外傷による肘関節の骨の置換は、よくある原因の一つだ。小さい嚢胞や腫瘍も、橈骨神経管で神経を圧迫する場合もある。橈骨神経管の後骨間神経絞扼で一番よくあるのは、橈骨神経管の端で、腱帯が神経を押すことだ。

 

手根管症候群、または、肘部管症候群のような他の一般によくある上肢の神経圧迫の病状は、ピンや針で刺された感覚、電気感覚、鋭い刺痛のような感覚性異常で神経支配される。これらの強い感覚性症状は、悪化した神経内の皮膚感覚線維により生じる。

 

橈骨管症候群では、神経圧迫は少し異なる。これは、後骨間神経が主に運動神経であり、感覚線維は非常に少ないためである。しかし、後骨間神経は神経支配する筋と関係している関節部位から感覚線維を運んでいるため、感覚線維が完全に欠けているわけではない。橈骨神経の圧迫で感じる痛みは、感覚線維が生じる筋腹で知覚される可能性が高い。上腕骨外側上顆炎とは対照的に、橈骨管症候群の痛みのパターンは、主な圧痛が、上腕骨外側上顆にある腱付着部に非常に近い腱線維で生じる。

 

後骨間神経は主に運動神経であるため、筋力低下や上肢の巧緻性の問題をよく起こる。影響を受ける主な筋は、手関節と手指の伸筋である。伸筋が著しく収縮すると、影響を受けた筋の感覚線維は刺激されているため、前腕の痛みは、筋力低下に付随する。運動症状と感覚症状は一緒に存在したり、片方だけが存在したりする場合があることを、覚えておかねばならない。

 

橈骨管症候群の症状は急に発症したり、ゆっくりと発症したりする。どのように発症するかは、神経圧迫の主な原因に大きく左右される。例えば、橈骨管症候群は多くの場合、急性損傷で生じ、骨折や肘関節の脱臼によって肘の骨の位置アラインメントが変化している。この場合、症状の急激な発症は、この部位の外傷に直接関係している可能性がある。

 

その他の場合では、症状はよりゆっくりと起こる。例えば、橈骨管症候群が近くの筋の腫瘍または腱帯に起因する場合、症状はゆっくりと現れるだろう。前腕の回外と回内を伴う反復的な活動は、特に、神経を伸長させる肘を伸展させて行われる場合、この症状を生じる可能性が最も高い。2

 

評価

橈骨管症候群を確認するのに役立つ、いくつかの痛みと症状パターンはすでに紹介した。加えて、手で書くような活動は前腕の筋で持続的な等尺性収縮を引き起こし、橈骨管症候群の痛みを悪化させやすい。また、痛覚は、上腕骨の外側上顆に遠位の回外筋を直接触診することで再現されやすい。回外筋の線維が後骨間神経を圧迫している場合、前腕の回外の抵抗でも症状を悪化させる。3

 

手関節と手指の伸筋の虚弱や麻痺も、よくある所見である。圧迫が軽度、または、中等度である場合のみ、患者は多くの場合、抵抗に対して手関節や手指を伸展することができない。虚弱に加えて、手関節の伸筋の痛みは手関節や手指の伸展の抵抗でも現れる。

 

治療

マッサージと軟部組織治療は、橈骨管症候群を治療するうえで有益だ。施術者は、他の部位で橈骨管症候群の神経圧迫症状を悪化させる多発的な神経圧挫や神経緊張が存在する場合に備えて、胸郭出口、腋窩、側頸部のような、潜在的な神経絞扼の他の部位を対象にすべきである。

 

特に、前腕では手関節と手指の伸筋に注意する。これらの筋への「深部長軸剥がしテクニック」は、橈骨神経の遠位にある神経制限を解放するのに役立つ。手関節伸筋の緊張の減少も、症状を緩和させる場合がある。また、手関節伸筋の「深部拡大テクニック」も、この部位で効果がある。

 

後骨間神経と橈骨神経管の間の接点で生じている神経圧迫を低下させることも、有効である。前腕を回内させながら、回外筋の近位の部位で強い圧迫をかけることで、回外筋の伸長を促し、神経の圧迫を減少させる。しかし、施術者は、圧迫された神経に圧迫をかけて症状を悪化させないように慎重になる必要がある。

 

疑われる上腕骨外側上顆炎が治らない場合、橈骨管症候群の症状を観察する。外側上顆の深部摩擦マッサージは上顆炎の主な治療であるが、この治療は橈骨神経圧迫を悪化させる可能性がある。したがって、外側上顆の近くの深部摩擦治療で神経症状や痛みを前腕の先まで悪化させる場合、この部位の橈骨神経絞扼の可能性を考慮して、治療アプローチを修正することが賢明である。

 

橈骨管症候群は一般的な病態ではないものの、適切に認識されない場合、痛みを伴い、衰弱させる問題となる。その症状は、上腕骨外側上顆炎として非常によく間違えられやすい。肘外側と前腕の痛みに対して最も効果的な治療を行うためには、両方の問題をはっきり理解しておくことが賢明である。

 

 

参考文献

1. Dawson D, Hallett M, Wilbourn A. Entrapment Neuropathies. 3rd ed. Philadelphia: Lippincott-Raven; 1999.

2. Roquelaure Y, Raimbeau G, Dano C, et al. Occupational risk factors for radial tunnel syndrome in industrial workers. Scand J Work Env Heal. 2000;26(6):507-513.

3. Moradi A, Ebrahimzadeh MH, Jupiter JB. Radial Tunnel Syndrome, Diagnostic and Treatment Dilemma. Arch bone Jt Surg. 2015;3(3):156-162.

 

プロフィール

Whitney Lowe LMT

『Orthopedic Assessment in Massage Therapy』『Orthopedic Massage:Theory and Technique』などの著書や長年にわたる臨床を通じて、アメリカではマッサージによる痛み・障害治療の第一人者として知られる。1994年、マッサージ師に整形外科マッサージおよび軟部組織異常を治療するのに必要となる高度な教育を提供するOrthopedic Massage Education and Research Institute(OMERI)を設立。現在、Journal of Bodywork and Movement Therapiesの編集委員も務める。